さようなら、お別れしましょう
 せめて、兄上がレフィカをかばう前であれば、俺は彼女の愛を取り戻せたかもしれない。
 
「兄上の領地から、罪人が送られてくる。牢屋に入れておけ」
「ざ、罪人ですか?」
「兄上を刺し、レフィカに暗殺者を仕向けた女だ」
「ひえっ! ジグルズ様を!?」
「それはいったい何者ですか?」

 俺は大臣たちに告げた。

「メリアの侍女。ベルタだ」
 
 騒いでいた大臣たちが静まり返った。
 俺はベルタが処刑される前に、メリアを問いたださなくてはならない。

「メリアと話をしてくる。俺の周りに護衛をつけろ」

 俺は兄上とは違う。
 自分を過信しない。
 大臣たちの顔つきが険しくなり、侍従に耳打ちする。
 侍従はうなずき、走っていく。
 
「騎士団長をここへ。メリアの監視を増やし、部屋の周りを固めよ」

 一瞬で、王宮の空気が変わった。
 王宮全体がメリアを捕らえるための牢となる。

「正直に話さないだろう。だが、証拠を探すまでだ」

 騎士団長と騎士が揃い、メリアの部屋へ向かう。
 重い鎧の音が廊下に響く。
 いつもとは違う空気に、メリアも気づいたはずだ。
 侍女たちが驚き、平伏して道を開ける。
 メリアの部屋の扉を開けた。

「イーザック様? これはいったい何事ですの?」

 驚いて椅子から立ち上がったメリアは、飲んでいたティーカップを倒した。
 白いテーブルクロスの上に、赤い紅茶のシミが広がっていく。

「メリア。ベルタが捕まった。なぜなのか、お前にはわかるだろう」

 メリアが動揺するかと思っていたが、そんな様子は少しも見せなかった。
 
「なんのことでしょう? イーザック様はご存じないでしょうけど、ベルタは貧しい生まれで、たびたびお金や宝石を盗んでいましたのよ」
「なぜ、それを俺に報告しなかった」
「わたくしの侍女に、泥棒がいるなんて、恥ずかしくて言えませんわ」
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