さようなら、お別れしましょう
 でも、なぜか王宮にたくさん植えられていた薔薇の花は一輪もなかった。
 
「そういえば、各所に設置した町の地図が好評らしいな」

 シャルク・ホジャの区域ごとに地図を設置した。
 自分の現在地がわかりやすいのと、町役場を強調して描いたからか、町役場前で落ち合う人を見かけるようになった。

「迷う人が減ったと聞いて、本当によかったと思いました」
「レフィカのおかげだ」
「いいえ。みんなが一緒に地図を作ってくれたおかげです。案内本も落ち着いたら、お屋敷のみんなで作ろうって言ってるんですよ」

 私がいつまでここにいられるか――そのことについて、お互い触れなかった。
 ジグルズ様が『お礼だ』というように、庭に咲いていた花を摘んで、私の髪に飾った。

「ジグルズ様、この花は……」

 その花をいつ植えたのか、それはドーヴハルク王国の花だった。
 メリアに切り落とされたはずの花が、庭園に咲いていた。

「いつの間に植えていたんですか?」
「ゼリヤから王宮での話を聞いた後、ここに植えた。ドーヴハルクの花は強い。どこの土にも根づきやすい花だ」

 すべて切られたはずの花が、またここで美しく咲いている。
 冷たい風にも耐え、雪の中でも咲く花は、来年にはもっと増え、この庭中に花を咲かせるだろう――私がいなくなっても。

「レフィカ」

 ジグルズ様は私の名を呼び、手を取り、目を閉じる。
 まるで、誓いの儀式のようだった。

「【契約】を無効にする方法を探そう」

 それは、ジグルズ様が、私の【契約】を無効にするため、全面的に協力するという宣言だった。
 
「はい!」

 私は涙をこらえて微笑んだ。
 ジグルズ様も私に微笑み返し、幸せだと感じた瞬間――   
 
「ジグルズ様、レフィカ様。失礼します」

 ジェレンの声がして振り返った。
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