さようなら、お別れしましょう
 それに合わせて、メリアも王宮へ訪れているのだという。
 今思えば、彼女は一度も私を『王妃』と呼ばなかった。
 偶然、鉢合わせたわけではなく、彼女は会いにきていたのだ。
 私の夫に――

 ――私が知らなかっただけで、すでに彼女とは恋人で、妻にするつもりだったのね……

 ちらりと大臣たちのほうを見ると、気まずそうに私から目を逸らし、ゴホゴホとわざとらしく咳ばらいをした。

「世継ぎが必要だ。自分が興味を持てない女性相手では……さすがにな」

『興味を持てない』と公言した夫の抑揚のない声が残酷に響く。
 広間は静かで、なおさらその声が冷たく聞こえた。
 私は敵国、ドーヴハルク王国から嫁いだ妻。
 一緒に過ごせば、少しずつ心を開いてくれるのではと期待していた。
 それなのに、興味すら持ってもらえなかったなんて……
 
 ――私は国と国の【契約】の証し。

 両国の争いを止めるための道具。
 それでも、愛してもらえるかもしれないと期待して嫁いだのは、一年前のこと。
 結婚式を終えても、私の部屋へ彼が訪れることは一度としてなかった。
 その理由がやっとわかった。

 ――彼はずっと私ではない、別の女性を愛していたから。

 私は愛されていなかった。
 うつむき、この国では珍しい自分の銀髪に視線を落とした。
 長い銀髪、雪に似た白い肌――嫁ぎ先では目立つ容姿で異色の存在だった。
 嫁いだばかりの頃、王宮の使用人たちからは――

『ご覧になって、あの銀髪! まるで雪の魔物のようだわ』
『作り物の人形みたいね』

 などと言われ、あまり評判はよくなかった。
 グランツエルデ王国の王である夫、イーザック様は二十三歳と若く、黒髪と琥珀色の瞳を持つ。
 そして、勇ましい獅子のモチーフの王笏、濃い青の上着には金色の刺繍が施され、煌びやかな装飾品を身に付けている。
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