さようなら、お別れしましょう
「二年しか経っていないのに、懐かしく感じるわ。私とレフィカの秘密の場所だったわね」

 ドーヴハルク王国の後宮は、乗り越えられない高さの分厚い石の壁が、私たちを閉じめていた。
 ここリュザール王国の後宮は違っていた。
 アラベスク模様の青いタイルの壁が回廊を飾り、砂漠からの砂を防ぐための木々が植えられ、漆喰の壁、アーチ状の窓がある。
 等間隔に並んだ壁の窓からは、オアシスの町と砂漠が見えた。
 この国の後宮は、女性を閉じ込める場所ではないようだ。
 
「レフィカは私の【契約】がどうなったか、聞きたいのでしょう?」
「はい」

 イレーネお姉様は心臓がある左胸に手をあて、落ち着いた声で語り始めた。

「私はお父様から、年の離れた相手の結婚だと聞かされて嫁いだの。どんな方かと思っていたら、陛下はとてもお優しくて、私を助けたいと申し出てくださった」

 イレーネお姉様が語っているのは、嫁いだ時のことだとわかった。

「陛下だけでなく、リュザール王家の方々は【契約】を無効にするため、多くの文献を手に入れ、知識人や医師、薬師を招き、どうにかできないか全員で考えたのよ」
「リュザール王家は困難が起きた場合、一族で対処すると聞きました」
「ええ。全員が知恵をふりしぼり、解決方法を知っていそうな人間を探し、なんとかしようとした。それでも【契約】を無効にする方法は見つからなかった……」

 イレーネお姉様は膝の上で両手をぎゅっと握りしめた私の手に、自分の手を重ねた。

「レフィカ、ごめんなさい……」

 お姉様は私に謝った。
 その謝罪は、私の【契約】を無効にする方法はないと言われたのと同じことだった。

「私の【契約】が無効にできたのは、陛下のおかげなの。陛下が五つ目の【契約】を変えなかったら、私の心臓には、今も【契約】が刻まれたままだった……」

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