さようなら、お別れしましょう
 私がそう言うと、イレーネお姉様は頬を赤く染めてうなずいた。
 私が知っているイレーネお姉様は、冷静で落ち着いた人だった。
 でも、カリム様に会って、イレーネお姉様は自分の感情を出せるようになったのだ。
 この国でイレーネお姉様は自分の家族となる人を見つけ、幸せに暮らしている。

「レフィカ、ありがとう。カリム様が私を妻に望んでくださって……その……赤ちゃんもお腹に……」
「えっ? あ、赤ちゃん!?」

 カリム様が一人でシャルク・ホジャに来たのは、イレーネお姉様とお腹の子を守るためだったのだ。
 ジグルズ様が私が父と繋がっていないかどうか警戒し、慎重に見極めていたのもわかる。
 カリム様がイレーネお姉様を隠し、リュザール王国の地方へ赴き、穏やかに暮らしているのを知っていたからだ。

「イレーネお姉様。なおさら、体を大事にしないと……」
「レフィカ。あなたに会えてよかった。本当は自分の幸せを後ろめたく感じていたの。私だけが幸せになれないと思って……」
「イレーネお姉様は幸せになっていいんです! そのために、私たちは努力してきたのを忘れていませんよね?」

 イレーネお姉様は砂漠を眺めた。
 その砂漠の向こうにはドーヴハルク王国がある。
 今もイレーネお姉様は、父を恐れている。
 イレーネお姉様の手を握ると、私の顔を見て微笑んだ。

「レフィカ。私はね、五つある【契約】のうちの四つををお父様から聞いて、私は嫁いだの」

 お父様は必ずそうしているのか、それは私と同じだった。

「私の五つ目の【契約】を教えるわ」

 イレーネお姉様が自由を手に入れた五つ目の【契約】。
 それは――

「私の五つ目の【契約】。それは『夫から離縁された場合、【契約】を無効とする』よ」

 ――【契約】の無効を五つ目に入れた。

 強い風が吹き、私の髪を覆っていたショールが飛んでいった。
 それを拾うこともなく、私はイレーネお姉様に言った。
 
「そんな【契約】はありえません……」

 五つ目の【契約】は無効にすること。
 リュザール王は【契約】の力を逆に利用し、無効にさせた。
 でも、イーザック様が決めた五つ目はきっと違う。
 私に興味を持てなかったイーザック様。
 同盟の道具としてしか、考えていなかった私に対して、命を救う【契約】をするとは思えない。

「レフィカ……」
 
 イレーネお姉様は私を抱き締めた。
 絶望なんてしたくない――したくないけど、涙がこぼれて止まらなかった。
 私の恋は叶わない。
 ジグルズ様への想いを告げることもできない。
 それはすべて私の命と引き換えなのだから――
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