さようなら、お別れしましょう
 カリム様は名を呼ばれて、水タバコの煙管を口から離し、白い煙がふわりと漂った。

「過去の書物に書かれていた。行動さえしなければ、ドーヴハルク王が持つ王の力は発揮されないと」

 古い歴史書をカリム様が差し出した。
 それをジグルズ様は受けとった。

「ジグルズ。その話を最後まで読まないほうがいい」

 カリム様がジグルズ様に忠告したけれど、ジグルズ様は返事をせず、無言でページをめくる。
 ページごとに、古い言葉を解読したと思われる紙が挟まっていた。
 
「なるほど」

 ジグルズ様は本を閉じ、私に渡した。

「ジグルズ、読ませていいのか?」
「知っておいたほうがいい」

 私はページをめくる。
 それは王女と騎士の恋の話だった。
 他国の王に嫁いだドーヴハルクの王女は、騎士に恋をした。
 それは王女の初めての恋だった。
 眺めているだけの恋は辛く、触れることも叶わない。
 徐々に二人は近づき、やがて【契約】が完璧でないことを知った。
 完璧でない力なら、抜け道があるのではと考えた。

『遠い場所なら、王の力が及ばないかもしれないわ。異国へ行って、二人で暮らしましょう』

 旅の許可をとった王女は、騎士とともに大陸を離れ異国の地へ逃げた。
 船は新しい土地へ二人を運んだ。
 新しい土地が見え、王女が足を一歩踏み出した喜びで、騎士に抱きつき、口づけをした。
 その瞬間、王女は倒れた。
 彼女の心臓は止まり、息をしていなかったという――
 後宮に閉じ込められ、慣れない国の王宮で暮らした王女が、新しい土地に足を踏み出した喜び。
 私には王女の気持ちが、痛いほどわかった。

「王の力に距離は関係ないということですね……」
「ああ。そのようだ。それと、王女から行動したことで【契約】の力が働き、命を失ったことが、その物語からわかる」

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