さようなら、お別れしましょう
「どなた?」

 ジェレンたちは驚き、ドアのほうへ一斉に振り向いた。
 ノックもなく入ってきたのは、メリアの侍女であるベルタだった。
 黒髪に黒い目、陰鬱な表情のベルタの顔は怖い。
 驚き、なにも言えなくなっているジェレンたちの代わりに、私がベルタに話しかけた。

「ええっと、ベルタ……さんでしたよね? なにかご用ですか?」

 ベルタは蔑んだ目で私を見た。

「レフィカ様にこちらをお返ししようと思ってお持ちいたしました」

 さっきまで、笑み一つなかったベルタが、暗い笑みを浮かべた。
 そして、手に持っていた布袋を開けると、白い紙をぶちまけた。

「これは……私の手紙……?」
「レフィカ様がイーザック様に書いた手紙では……?」
「この字はレフィカ様のものですよね」

 私が送った手紙が、テーブルや床の上に散らばった。

『はじめまして』
『いいお天気ですね』
『庭の花が綺麗です』

 私がイーザック様のことを考え、書き綴った言葉の数々。
 それを見て、ベルタは嘲笑う。

「陛下に手紙を送られていらっしゃったようですわね。陛下はお返事を書く予定はございません。ゴミを返ししますわ」
 
 ベルタの声が静まり返った部屋に響く。

「なっ、なんて失礼な! レフィカ様は王妃ですのよ。侍女ごときが、王妃の手紙をこんなふうに扱っていいとでも思っていらっしゃるのっ!?」

 ジェレンが怒っても、ベルタには平気な顔をしていた。

「王妃? 形だけの王妃になんの意味がございまして? この王宮から田舎臭いドーヴハルク人は、早く出ていっていただきたいわ」
「なんですって!」
「ジェレン! 待って!」

 ジェレンがベルタに詰め寄ろうとしたのを見て、慌てて止めた。
 必死に止めた私をベルタが嘲笑う。

「レフィカ様の侍女から、私が暴行を受けたと陛下の耳に入れば、厳罰を与えるでしょうね」
「なっ、なんですって! 卑怯よ……!」

 新しい妻を迎えたことが、王宮から発表されたばかり。
 こんな時に、メリア付きの侍女が、私の侍女から殴られたなどと、噂が流れたら、イーザック様だけでなく、国民もよく思わないだろう。
 味方のいない国で、私たちが弁解したところで、誰も信じない。
 王の寵愛を得たメリアの権力は強く、怖いものはなかった。
 すでにメリアは妃として権力を握り、邪魔な私を一刻も早く、王宮から追い出そうとしていた。

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