さようなら、お別れしましょう
 幸せに暮らしているカリム様とイレーネお姉様のことは隠し通す――絶対に!
 顔を上げ、父の視線を真っ向から受けた。
 
「お父様にご心配おかけてしてしまい、申し訳ございません。王宮前ではなく、中でお話しされてはいかがでしょうか?」
「噂で聞いていたよりも、王妃らしい振る舞いをしているな」
「私の噂ですか?」
「そうだ。他の女に夫を奪われ、王宮を追い出されて、平民に混じって働いていると耳にした」

 ――だいたい合ってる。

 私が王都にいない間、そんな噂が流れていたとは知らなかった。
 イーザック様の顔を見ると、気まずそうな顔をしていた。

「王の兄に拾われ、世話をされているとも聞いた。それは本当か?」
「ええ。まあ……」
「夫を奪われるとは情けない娘だ」

 そう言われると思っていた。
 まだ『この役立たずめ!』と罵られ、殺されなかっただけマシである。
 父と話すのは、嫁ぎ先が決まった日以来だった。
【契約】の場で、父との会話はなかった。
 道具でしかない娘にかける言葉はないのだろう。
 けれど、今、父は私を見て会話をしている。
   
「お父様。部屋に軽い食事と飲み物を用意してあります。中へどうぞ」
「食事は済ませている」

 用心深い父は、毒味が済んでいないものを口にしたくないようだ。

「庭で話すというのはどうだろう?」
「俺は構いませんよ」

 父はイーザック様を庭へ誘い、狭く戦いにくい場所を避けた。
 父の周りを固めているのは、ドーヴハルク王国の兵士たちだ。
 その兵士たちの風貌は、全員が戦い慣れた戦士のような男性ばかり。
 イーザック様の周りを護衛する華やかな騎士たちとは雰囲気が違う。
【契約】で同盟を結んでいても、父は自分以外の人間を心から信じることはない。 
 イーザック様が庭へ行く前に、横目でジグルズ様の存在を確認した。
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