さようなら、お別れしましょう
 自分の血を引いた子が、グランツエルデ王となることだけ。
 イーザック様は父の思惑を察して、表情を強ばらせた。
 薔薇園にさしかかり、全員が足を止めた。

「見事な薔薇園だ」
「薔薇がお好きで?」
「いや、特に興味はない。ただ、寒い地で育てられる花は限られると思っただけだ」

 父は表情を変えずに薔薇を眺めた。

「我々にも美しい薔薇園を造れる土地があればいいのだが」

 その言葉に、イーザック様は顔を強ばらせた。 
 父は自分の野心を隠さない。
 今よりも南下して、グランツエルデ王国の領地を手に入れたいと、遠回しに伝えたのだ。
 そして、【契約】による同盟の重要さをわからせようと、わざと脅した。
 返事に窮したイーザック様に気づき、横から口を挟んだ。

「お父様。強い花はどこであっても咲きますわ」
「俺もそう思う。ドーヴハルク王国の花はどれも強い花だ」

 私とジグルズ様は微笑んだ。
 私たちを見た父は、勝ち誇った笑みを浮かべて言った。

「ジグルズ。王にならなかったことを後悔させたいと思っていた」
「俺は後悔してませんよ」
「レフィカを妻にできなくてもか?」

 父の思惑は、グランツエルデ王家を乗っとることだけではなかったのだ。
 ジグルズ様に対しても仕掛けられていた。

「なるほど。王女たちの中から、あえてレフィカを選んで嫁がせたのは、ドーヴハルク王のたくらみでしたか」
「レフィカは娘たちの中でも美しい。そして、馬鹿ではない。ジグルズが気に入るだろうと思っていた」

 初めて父から褒められたのに、嬉しくなかった。
 父はイーザック様ではなく、ジグルズ様のことを考え、私を嫁がせた――なぜ、そんなことを。
  
「だが、残念だ。【契約】がある。王女を妻にできる資格があるのは、【契約】した王のみ」

 王位を目指した父と王位を捨てたジグルズ様。
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