さようなら、お別れしましょう
 よほど、この男が恐ろしいのか、貴族たちが慌てたように、俺のそばから離れた。

「お前はグランツエルデ王家のジグルズ王子だろう? 各国を旅しているらしいな」

 奥へ向かう途中で、周囲には聞こえない程度の声の大きさで、俺の名を呼んだ。

「俺を知っていましたか」
「有名だ。特に戦場での勇ましさは聞いている。リュザール王国との戦いで、末の王子を殺さずに助け、友好を築いたと」
 
 父に疎まれ、戦場に出るよう命じられるようになってから、友人や知り合いが増えた。
 だが、貴族たちに頭を下げられる立場の人間は、そう多くない。
 つまり、この男は――
 
「身分を隠し、旅をしているので、ジグルズと呼んでいただけると助かります」
「そうか。なら、ジグルズ。俺はドーヴハルク王、ガザンだ」
「俺はドーヴハルク王と呼ばせていただきます」
「それで構わん」
 
 戦った末に手に入れた王の地位。
 それを誇らしく思っているのは、自信にあふれた姿ですぐにわかった。
 
 ――やはり、国王か。

 服装は国王には見えない。
 狩猟に出かけてきたような革のブーツとベスト、胸元が開いたシャツに毛皮がついたマント――これが、本来のドーヴハルク人の服装なのかもしれない。

「こっちに来い。一緒に食事をしよう」 

 強そうな側近が数人控え、毒見役らしき人間もいる。
 大勢の人間を引き連れるのが面倒で、置いてきた俺とは正反対だ。
 王はこうでなくてはならないのかもしれない。
 俺のように簡単に命を危険に晒す人間は、きっと王には向かない。
 
「毒見は済んでいる。好きなものを食べろ」
「ごちそうですね」
「ふん、お前の国のほうがうまいものが出るだろう」
「あいにく、ほとんど王宮には帰っていませんので。おかげで好き嫌いはありません」

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