さようなら、お別れしましょう
「ドーヴハルク王と初めて会ったのは、俺が十代の頃でした」
「……っ!」

 相手に焦りが見え出した。

「嫁ぐ前の王女が大勢いた」
「それがどうした!」
「王女が一人残らず嫁いだ時、王の力を使う最後となる」
 
 ドーヴハルク王は息が上がり、苦しげに顔を歪めた。
 だが、剣を受け止めていた俺は、まだ余裕がある。
 
 ――そろそろ終わりだ。

「ドーヴハルク王が王でいられるのは、【契約】できる王女がいる間だけだ」
「まだ王女はいる……!」
「そうか。だが、イーザックは死ぬまで王だ!」

 疲れるまで待ち、強烈な一撃をもって反撃をする。
 ドーヴハルク王の重く大きな剣が、手から離れて地面に落ちた。

「王の力は使っていない」

 レフィカとイーザックが、微動だにせず、この戦いを眺めていた。
 そして、レフィカに微笑む。

「ジグルズ様……!」
「レフィカ、心配ないと言っただろう?」
 
 レフィカにとって、ドーヴハルク王は自分の命を左右する恐ろしい存在だった。
 今もそうだろう。
 その父親を負かしたのを見た時、彼女の父親への恐怖が薄らいだのがわかった。
 絶対的に強い存在ではない。

「俺の勝ちだ」

 ドーヴハルク王は負けたショックからか、しばらく静かにしていたが、落ちた剣を眺めながら笑い出した。

「それがどうした。勝ったところで、なにひとつ変わらないがな。俺は王の力を捨てる気はない。そして、レフィカの心臓には【契約】が刻まれたままだ」

 ひとときの幸せに浸った俺たちを嘲笑った。

「言っておくが、俺を殺しても【契約】は消えんぞ。一度、刻まれた【契約】を簡単に消せると思うな」

 ――王が死んでも【契約】は残る。

 レフィカが自由になることはない。
 ドーヴハルク王は哀れんだように俺を見る。

「どんなに愛そうと、お前とレフィカは永遠に結ばれることはない。せいぜい王にならなかったことを後悔しろ」

 ドーヴハルク王の笑い声が薔薇園に響き渡った。
 剣で負けようが、最後に勝つのは自分だと言わんばかりに笑っていた。

「それはどうだろう」

 黙ったままだったイーザックが口を開いた。
 ドーヴハルク王が驚き、イーザックを見る。
 レフィカの心臓に刻まれた五つの【契約】をイーザックは知っている。
 イーザックの琥珀色の目は、レフィカを見つめていた。
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