さようなら、お別れしましょう
 妻だったというのに、こんなふうに彼女と見つめ合うのは初めてだ。
 いかに俺がひどい夫だったのかわかる。

「レフィカ、すまなかった」
「イーザック様? なぜ、謝って……?」
「お前の心臓に死の【契約】刻んだのは、ドーヴハルク王と俺だ」

 改めて伝えられたレフィカは、悲しげな表情を浮かべた。
 美しい銀髪が午後の陽光に照らされ、冠が見えるようだ。
 俺が別居を告げた日、あるはずのない妃の冠を見た。
 あの時、レフィカが堂々と去っていく姿に、俺は惹かれ、恋をしたのだと気づいた。
 そして、その恋は自分の手によって、儚く終わるのだ――今。

「俺はお前を愛していない。愛せない妃をそばに置くつもりはない」
 
 ――嘘だ。俺のそばにいてほしい。

 突然言われたレフィカは驚いていた。
 これは俺なりのけじめだ。

「グランツエルデ王、待て!」

 ドーヴハルク王は俺を止めた。
 だが、俺はやめるつもりはない。
 俺は愛する君のため、五つ目の【契約】を使おう。
 それは――

「俺は君を《《愛していない》》。《《さようなら》》だ」

 ――俺は君を愛している。別れたくない。

 自分の本当の気持ちを隠し、レフィカに別れを告げた。
 その瞬間、レフィカは心臓に手をやった。
 心臓を縛っていた【契約】の鎖。

『王女を正妃として迎える』
『王女の逃亡を禁ずる』
『領土を奪わない』
『妻の不義』
『愛していない、さようならと告げた時、【契約】を終わりにする』
 
 五つの言葉の鎖が左胸から浮かび上がり、空気に触れた瞬間、砕け散って消えた。

「【契約】が消えた……?」
「そうだ。俺はメリアだけを愛していた。嫁いでくる王女を愛せなかった場合、実家に帰すと、ドーヴハルク王と約束していた」

 あの時は笑いながら、五つ目の【契約】を決めた。
< 244 / 249 >

この作品をシェア

pagetop