さようなら、お別れしましょう
 俺はメリアを愛していて、王女を愛せないだろうと思っていた。
 だから、いつでも王女を国へ帰せるような【契約】が欲しかったのだ。

 ――心がなくても、口に出せば、【契約】は消えるんだな……

 レフィカはどれだけ自由を心待ちにしていたのか、青い目に涙を浮かべ、嬉しそうに微笑んだ。

「イーザック様、ありがとうございます」
「礼を言われても困る。俺は一方的に別れを告げたひどい夫だぞ。最後まで、お前を愛せなかったんだからな」

 ――嘘だ。

 だが、この嘘を見抜かれるわけにはいかない。
 夫に捨てられたと、人々に噂されるだろうが、それもしばらくのことだ。

「兄上。兄上が言ったように、【契約】による同盟などやらなければよかった」
「イーザック……」

 兄上はぽんっと俺の頭に手のひらをのせた。
 俺は兄上のようになりたくて、いつも後ろを追いかけていた頃を思い出した。

「お前はいい王になる。大丈夫だ」
「兄上、子供扱いはやめてください。俺はもういい年した成人男性ですよ」
「そうだったな。悪い。だが、お前がいくつになっても、俺の弟だ。いつでも頼れ」

 ここで子供の頃のように、泣くわけにはいかない。
 俺は王だからだ。
 ドーヴハルク王に顔を向けた。

「ドーヴハルク王。すでに国境は固めてある。我が国を敵に回す覚悟があるのなら、いつでも攻めてくるといい」

 自信たっぷりで、余裕があったドーヴハルク王の顔の表情が、苦々しいものに変わった。

「やっかいなのはジグルズだけでじゅうぶんだというのに……」
「イーザックはまだまだ成長しますよ。若いですからね」

 兄上が追い討ちをかけるように言った。
 体力不足で負けたドーヴハルク王にとって、今の言葉はかなり堪えたと思う。
 ドーヴハルク王はレフィカに尋ねた。 

「レフィカ、ドーヴハルク王国へ戻るか?」
「お断りします」

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