さようなら、お別れしましょう
「わかってます」

 私はシャルク・ホジャに戻った後、公爵補佐官として、ジグルズ様の仕事を手伝ってきた。
 この日のために、ジグルズ様は『自治権など無理だ』『ジグルズ様でないと』という人々を説得してきたのを知っている。
 町役場で働く人を募集したけれど、かなりの人数が集まり、選ぶまでも大変だった。
 寂しさを感じるよりも、やっとこの日にこぎ着けたという気持ちのほうが大きい。
 運河を眺めながら、私とジグルズ様はお屋敷までの道を並んで歩く。
 巡回警備中の兵士は、ジグルズ様に会うと、必ず敬礼をする。
 自治権を渡すにあたり、ベルクヴァイン公爵家は町の防衛を請け負った。
 町の各所に、ベルクヴァイン公爵家の兵士たちが配置され、夜道も安心して歩ける。

「あっ! ジグルズ様とレフィカ様だっ!」
 
 薄闇の中から、私たちの姿を見つけたのは、ハリルだった。
 ハリルがお祭りで買ったお菓子を手に、駆け寄ってこようとしたのをゼリヤが止めた。

「今日は二人の邪魔をしないようにって言ったでしょ! あぁ、もう! ハリル、顔にクリームがついてるわよ!」

 いつものキリッとしたゼリヤと違い、仕事でない時のゼリヤは、母親の顔をしていた。
 どこにでもいる普通の親子に見え、ハリルもはしゃいで嬉しそうだ。
 ゼリヤが遠くからお辞儀して、ハリルと手を繋ぎ、お祭りの屋台が並ぶ町の中へ消えていった。
 そんな親子の光景が、たくさん見られた。

「いい町だ」
「はい」
「俺たちが望んでいる幸せは、きっとこんな当たり前の日常だ」
「ええ、わかります」

 ジグルズ様が私のすぐ頭の上で、笑ったのがわかった。

「ジグルズ様?」
「プロポーズのつもりだったんだが」
 
 ドンッと花火の音が夜空に響いた。
 琥珀色の瞳に、私の姿が映っているのが見えた。

「レフィカ、俺の妻になってほしい」
「はい……」

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