さようなら、お別れしましょう
8 目ざわりな正妃(2) ※メリア
「イーザック様、花を処分しておりましたの!」
「処分? 庭仕事は庭師に任せておけ。庭師の仕事を奪うな」
「わたくしの手で、この花を切り落としたかったのですわ」
イーザック様は花を見つめる。
わたくしが切っていた花は、レフィカ様が嫁いだ時に、庭師が種をもらって植えた花。
――切るなとはおっしゃいませんわよね?
「このお花。レフィカ様からいただいたものですわよね?」
「ああ。だが、花は花だ。特別な意味はない」
そう言いながら、イーザック様は地面に落ちた花を目で追う。
「ドーヴハルクの花は、グランツエルデ王宮の庭にふさわしくありませんわ。ですから、切り落としましたの」
「……そうか。しかし、茎だけの庭は不気味だ。花だけが地面に落ちて、まるで血痕のようだ」
イーザック様は手が汚れるのも構わずに、地面に落ちた花を拾い上げた。
――なぜ、泥で汚れた花を拾うの? もしかして、花を見て、レフィカ様を思い出していらっしゃるの?
「浮気ですわ」
「浮気? 誰が?」
「今、イーザック様はレフィカ様のことを考えていらっしゃったのではありませんか?」
「いや、花を見ていただけだが」
――嘘つき。口ではお前だけだと言いながら、美しいレフィカ様に心を動かされているのでしょう?
レフィカ様の手紙を部屋に隠し、大切に保管していたのが、浮気の証拠。
イーザック様は顔色一つ変えずに嘘をつく。
「イーザック様。部屋にレフィカ様の手紙を隠していましたわね?」
「なぜ、知っている? いや、隠していたわけではないが……。メリア、俺の部屋に入ったのか?」
「ベルタに掃除をさせただけですわ。ベルタ、レフィカ様の手紙を持ってきてちょうだい」
わたくしはベルタに合図を送り、手紙の入った袋を持ってこさせた。
――イーザック様は浮気の証拠を突きつけられて、なんと言い訳するのかしらね?
手紙を目にしたイーザック様は、目を大きく見開いた。
「ベルタ! 俺の部屋から盗んだのか!」
「ひっ!? い、いえっ、これは……」
ベルタは助けを求め、わたくしのほうを見る。
「わたくしがベルタに命じて、部屋の掃除をお願いしましたの。まさか、レフィカ様の手紙があるなんて、驚きましたわ」
イーザック様はきっと浮気を反省して、わたくしに謝ってくる。
そう思っていた。
けれど、わたくしが思っていた反応と違っていた。
「メリア。お前の掃除は今回だけ見逃してやる。だが、二度目はない。王が政務を行う部屋へ許可なく入るな! いいな?」
「イーザック様……」
まさか、イーザック様が怒るとは、思っていなかった。