さようなら、お別れしましょう
 一人に――私は一人になってしまったのだ。
 母が去り、守ってくれる人が誰もいなくなった後宮で、私は王女であっても、下働きをするよう命じられた。
 命じたのは、父の寵愛を競う妃たちだった。

「お母様に捨てられたんですってね」
「他の妃たちに負けたのよ。教養のない最下層の侍女ですもの。当然よね」
 
 侍女の身分は二つに分かれる。
 妃になるために後宮へ呼ばれた女性は、歌や踊り、楽器を奏でて、王の前に出る機会が与えられる。
 それとは別に掃除や厨房、機織りなど、後宮で働く女性は王の前には出ない。
 母は後者の侍女だった。

「有力な実家もない、後見人もいない。美しいだけの無教養な女性が、陛下の寵愛を独り占めできるわけないでしょ」
「そんな女が図々しくも、陛下にお願いするなんて笑ってしまったわ」
「自分の娘だけを【契約】させないよう頼み込むなんてね」
「【契約】は王女の務め。わたくしは娘の犠牲を誇りに思うわ」
 
 母は私を生かすため、【契約】をさせないよう、父に頼んだのだとわかった。 
 それで、父の怒りを買い、追い出されたのだと。
 どこにも帰る場所のない母。

 ――おかあさまはどこへ行ったの?

 毎晩、暗い夜空を見上げ、私は泣きながら母のことを考えていた。

「レフィカ、美味しいお菓子をもらったの。一緒に食べましょう」

 そんな時、私に声をかけてくれたのが、イレーネお姉様だった。
 私には母親の違う姉や妹が何人もいる。
 その中でも、イレーネお姉様は他の王女とどこか違っていて、私にも優しかった。
 イレーネお姉様は毎日、後宮の書庫に出入りし、窓辺で静かに読書をしていた。

「一緒に……?」
「そうよ」
 
 イレーネお姉様は紙に包んだ揚げ菓子を広げ、私に見せた。

「レフィカは星を見ていたの?」
「うん……」

 砂糖衣に包まれた甘い揚げ菓子をかじる。
< 38 / 45 >

この作品をシェア

pagetop