さようなら、お別れしましょう
10 王女たちの契約(2)
『イレーネお姉様が死ぬわけない!』
 叫びそうになり、慌てて自分の口を塞いだ。
 そのせいで、ぐらりと体が傾いて、屋根から落ちかけた。
 屋根の飾りとして置かれている怪鳥の彫像に手を伸ばして、必死にしがみつき、なんとか耐えた。
 イレーネお姉様が死んだと言われても、実感が湧かない。
 つい半年前、元気な姿で別れたばかりだ。
 脳裏をよぎる星空と指切り――イレーネお姉様が恋をして逃げるなんて想像できなかった。
 人づてに『死んだ』と聞いても、実感がわかない。
 
「陛下は代わりの王女を嫁がせると言っていたわ」
「それじゃあ、レフィカ様を?」

 父は他の王女を差し出し、新たな【契約】を結ぶつもりでいる。
 そして、他の王女たちにはイレーネお姉様の死を隠す。
 
 ――本当にイレーネお姉様は死んだの? あのイレーネお姉様が恋に落ちて逃げる?
 
 イレーネお姉様がわずか半年で恋に落ち、夫から逃げるような性格だろうか。
 南のほうを見ても、イレーネお姉様の嫁ぎ先まで見通せない。
 見えるわけないって、わかっていたけれど、草原や森林の先を見た。
 
 ――落ち着かなきゃ。私がおかしいと思っているということは、お父様もきっと同じように疑ってるはず。

 イレーネお姉様が本当に死んだのかどうか確かめるため、父が他の王女を嫁がせる可能性がある。
 侍女たちが去り、静かになったのを見計らい、誰にも見つからないように屋根からそっと降りた。
 さっきの話が真実なのかどうか知りたい。
 でも、イレーネお姉様がどうなったのか、誰にも聞けない。
 嫁いだ王女のことを教えてはいけないと、しきたりで決められているからだ。
 考えながら、後宮の中を歩く。
 
 ――若い騎士と逃げたなんて嘘。だって、イレーネお姉様は私に言っていたわ。

『レフィカ。嫁いだら王妃として、しっかり務めを果たすのよ。そうすれば、きっと生き延びれるから……』

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