さようなら、お別れしましょう
 イレーネお姉様は王妃として、王である夫から必要とされ、生きていけるよう知識を蓄えていた。
 どこに嫁いでも、イレーネお姉様なら有能な王妃として有名になるだろう――そう思っていた。

 あの努力が無駄だったなんて思いたくない。

「ちょっと! レフィカ、どこにいたの!? わたくしの部屋に薪を運んで!」
「寒いんだから、暖炉の火を絶やさないでよ!」

 私の前に現れたのは異母姉妹――他の王女たち。
 後見人がいる王女たちは、私と扱いが違う。
 私と違い、美しいドレスを着て、毎日優雅に暮らしている。
 現れた王女たちはイレーネお姉様より年上で、先に結婚するなら彼女たちのほうだったはずだ。
 でも、お父様が嫁がせたのはイレーネお姉様。
 王女は政治的な駒である。
 捨てていい駒を選んでいるのか、それとも、なにか考えがあって……?

「イレーネが嫁いだけど、次はきっとレフィカよ」
「レフィカはどこへ嫁ぐのかしら?」
「教養もなく、みすぼらしいレフィカは、田舎の小国か、野蛮な部族の貢ぎ物に決まってるわ!」

 後宮の回廊に、笑い声が響き渡った。

「髪飾りくらいは買ってもらえるような相手だといいわね?」
「お父様に愛されている私たちは、きっと大国や豊かな国へ嫁いで幸せになるわ」

 勝ち誇った笑みを浮かべた彼女たちをまっすぐ見られず、目を伏せた。
 どんな暮らしをしていようと、王女は例外なく【契約】に縛られ、他国へ嫁ぐ運命にあるのは変わらない。
 私たちは後宮という狭い世界に閉じ込められ、生死すら自由にならないのだ。
 王女の生死を左右するのは――

「レフィカ、喜べ。お前の嫁ぎ先が決まった」

 大勢の人間にかしづかれ、後宮にやってきたのはドーヴハルク王――父だった。
 異母姉妹たちはひざまずき、頭を垂れたけれど、私は頭を下げず、父を見上げていた。

< 43 / 52 >

この作品をシェア

pagetop