さようなら、お別れしましょう
 ――私の結婚が決まった……。イレーネお姉様の次は、私を殺すの?
 
 イレーネお姉様に代わり、私を四十歳以上も年上の相手と結婚させるつもりだろうか。

「どうした? 結婚について、なにか言いたいことでもあるのか?」
「いいえ。失礼いたしました……。あまりに急なお話で驚いただけです」

 イレーネお姉様の死を私が知っていると、父に知られるわけにはいかない。
 王女たちは『なにも知らない』のだから。
 愚かなほうが父にとって、便利な道具で扱いやすい。
 平常心を装い、さっと頭を下げた。

「お前が嫁ぐのは、隣国グランツエルデだ。近年、即位したばかりの若く見目麗しい男だぞ」

 私だけでなく、嫁ぎ先を聞いた全員が、顔を上げて父を見た。

 ――大国グランツエルデ? イレーネお姉様の嫁ぎ先じゃない?
 
「王女の嫁ぎ先は教えないはずでは……」

 後宮のしきたりでは、王女の嫁ぎ先は伏せられる。
 けれど、父はそれをあえて口にした。
 驚き、顔を上げた私を父は笑った。
 珍しく父は上機嫌だった。

「教えるか教えないか、それを決めるのも王だ」

 王の気まぐれで教えられた私の嫁ぎ先。
 私の嫁ぎ先を聞いて、政治に興味がない異母姉妹たちであっても、大騒ぎになった。

「大国グランツエルデにレフィカが嫁ぐですって!?」
「今まで一度も【契約】に応じなかった敵国ではございませんか?」
「どうして、レフィカがグランツエルデ王国へ……?」
「部族の長にでも、嫁ぐのかと思っていたわ。大国へ嫁ぐなんてありえない!」

 私の嫁ぎ先は異例中の異例。
 父が喜びを隠しきれずに、口に出してしまうくらいだ。
 ドーヴハルク王国の領土は、元はグランツエルデ王国の領土だった。
 だから、ドーヴハルク人は他の国の名前を知らなくても、グランツエルデ王国の名前だけは知っている。
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