さようなら、お別れしましょう
 ドーヴハルク王国を国として認めず、拒み続けてきた敵国である。

「若く美しい王は即位したばかりで自信に溢れ、血の気が多い。他国と些細なことで争い、うまくやれていないようだ」
 
 ――お父様が他国との不和を煽ったという可能性もあるわ。

 グランツエルデ王国に王女を嫁がせるのは、ドーヴハルク王国にとって大きな意味を持つ。
 領土を奪っただけでなく、やがて王家を乗っ取る――そんな父の野心が見えた。

「レフィカが大国に嫁ぐなんてずるいわ! しかも、グランツエルデ王家だなんて!」
「安心しろ。他の王女の嫁ぎ先も決めてきた」
「お父様、本当? レフィカよりも大きな国?」
「ああ」

 異母姉妹たちは、イレーネお姉様ほど勉強していなかったから、他国のことにも疎い。
 国の大きさで、裕福さは決まらないのに、異母姉はとても喜んでいた。

 ――他の王女の結婚も決まったということは、イレーネお姉様の代わりに、お父様は他の王女をふたたび送り込むつもりなの?

 私は喜べなかった。
 でも、父の前で無邪気に喜ぶ王女こそ、父から愛される娘だろう。

「レフィカ。嫁ぐ前に忠告してやる。賢い妻など邪魔なだけだ。グランツエルデ王に従順な妻でいろ。一日でも長く生きたいのであればな」

 父はそう言って、私の横を通りすぎた。
 私の横には『嫁ぎ先は、ドーヴハルク王国よりも暖かい国よね!』と、大喜びしている王女がいた。
 その王女を蔑んだ目で見下ろし、無知な娘を嘲笑う。

 ――愛する娘に向ける目ではないわ。

 父の心中が垣間見え、ぞっとして背筋が寒くなった。
 父は即位するまで、王宮へ来たことがなかった。
 それは他の王子も同じ。
 王の息子は即位するまで、王宮の外で暮らす。
 王子は王女と違い、後見人の元で育つ。
 大勢の王子の中から選ばれ、王宮へやって来れるのは一人だけ――ドーヴハルク王として即位する者のみである。
 だから、王子は生まれた時から、王を目指して、厳しい教育を受ける。
 そして、暗殺や謀殺の対象となり、常に命の危険にさらされる。
 毎日が命がけの王子たちにしてみれば、王女たちは守られた場所で命を保証され、ぬくぬくと暮らしているように見えただろう。

 ――お父様は人間らしい情や心を全部捨てて、王宮へ来たのかもしれない。

 そんな父が私の嫁ぎ先に決めたのは、グランツエルデ王国。
 父は私を敵国へ嫁がせることを決めたのだった。
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