さようなら、お別れしましょう
 ――お父様は【契約】を全部、教えてくれなかったわ。

 最後の一つがわからない以上、私は慎重に行動する必要があった。
 うっかり死んだら笑えない。
 わざと父は、最後の一つを教えなかった。
 私が【契約】の隙をかいくぐり、裏切ったり、大胆な行動をとったりできないようにしたのだ。

「レフィカ様。この酷い仕打ちをドーヴハルク王国に報告しなくて、本当によろしいのですか?」
 
 別居用の住まいを目指す馬車の中で、ジェレンは『実家に報告しろ』と、何度も繰り返す。

「私とイーザック様の結婚は、両国の平和を維持するものです。愛情がないからと言って、報告する必要はありません」
「まあ、ご立派ですこと!」

 ジェレンは納得できず、不満げだった。
 でも、私が父に報告したところで――

『それがなんだ。このできそこない。死ぬのが早まっただけだな』

 ――なんて言われるのは、目に見えている。

 逃亡は死、正妃でなくなれば死、どこへ転んでも死。
 ここでの最善の一手は、現状維持が無難だ。
 ジェレンに納得してもらうしかない。

「ジェレン。私は少しも立派ではないですよ。あなたも知っているでしょう。私は【契約】によって、父とイーザック様に命を握られていることを」

 王女を使って【契約】する目的は、国と国の同盟――信頼強化である。
 歴史上、【契約】を使って同盟した国に対し、ドーヴハルク王国側から侵略したことがない。
 歴代の王が、一度も侵略をしていないからこそ、この【契約】には力がある。
 これが、一度でもドーヴハルク王が【契約】を破っていれば、口約束や紙の上の【契約】となんんら変わりない。
 簡単に破られる【契約】であったなら、誰も信用しないからである。
 
「レフィカ様、このままで大丈夫でしょうか。あの愛人……いえ、側妃が【契約】を破るようそそのかしたら……」
< 47 / 52 >

この作品をシェア

pagetop