さようなら、お別れしましょう
「ジェレン。王女は私だけではありません」

 ジェレンにわかりやすいよう空中に縁を描く。

「父がグランツエルデ王国を囲むように、王女たちを嫁がせたのには意味があります」
「陛下が……? 陛下の考えがおわかりになられるのですか?」
「ドーヴハルク王国にいた頃は、地図がなく、地理がわからず困りましたが、グランツエルデ王国では違います」

 ――グランツエルデ王宮の図書館は、後宮の書庫とは比べ物にならない蔵書量だったわ。

 私とイレーネお姉様は、他の王女たちが商人から宝石やドレスを購入していた時、ひたすら本を買って、一冊でも多くの新しい本を手に入れた。
 それを見た他の王女たちは、バカにして笑っていたけど、イレーネお姉様と本を交換して読めば、新しい本を多く読むことができた。
 グランツエルデ王国の王妃の立場であれば、王宮の図書館に出入りでき、好きなものを読めた。
 そして、世界地図――これで、どこにどの国があるのか、一目でわかった。
 あの世界地図に描かれた国のどこかに、イレーネお姉様はいる。
 イレーネお姉様の生死を知るためにも、私はこの別居生活をうまく利用しなくてはならない。

「ジェレン、敵に囲まれた状況で、【契約】を破ったならどうなると思いますか?」
「……レフィカ様が命を落としたことを口実に、ドーヴハルク王国の同盟国がグランツエルデ王国へ攻め込む。そういうことでしょうか?」
「それも一斉に攻め込むでしょう。猛禽類が獲物に群がるのように……」

 野心家な父は、新たな領土を手に入れるための口実が欲しいのだと思う。
 ドーヴハルク王国は寒く、農地となる土地が少ない。
 肥沃で豊かな南の地を手に入れたい。
 南下するには、グランツエルデ王国が邪魔なのだ。
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