さようなら、お別れしましょう
 父の策略によって、ドーヴハルク王国の同盟国に囲まれていることに気づいたイーザック様は、私を妻に迎え、【契約】を結ぶしかなかった。
 グランツエルデ王国は古い王国で、他国を下に見るところがある。
 ドーヴハルク人に対する態度からも、それがわかる。
 父はその性質を利用し、グランツエルデ王国と他国の不和を煽ったのだ。

「【契約】を破るのは難しく、両国ともリスクが伴うということです」
「さすが陛下。若いイーザック様のような王など、簡単に操れますわね」

 争いを起こしているのはドーヴハルク王国側だというのに、ジェレンは父を褒めた。 
 父の罠による政略結婚だと、私が気づいたように、イーザック様も気づいている。

 ――それでも、私は受け入れられないことを当たり前だなんて、諦めてしまいたくなかった……

 私がずっと憧れていた『家族』を持てるかもしれないと、ほんの少しだけ夢見ていた。
 馬車の窓から外を眺めると、王都で暮らす人々の姿が見えた。
 家族が笑いながら通りを歩き、子供をあやす母親がいる。
 当たり前の光景が、私には珍しいものとして目に映っていた。
 そして、とてもうらやましかった。

 ――私の望みは自由。夢は家族で暮らすこと。望みと夢は違う。夢は儚く、遠いもの。

 私の家族――私を置いて出ていった母、冷たい父、蔑み見下す異母姉妹たち。
 小さくてもいいから、あたたかくて優しい家庭を持てればと思っていた。
 もしかしたら、イレーネお姉様も私と同じように、普通の家族が欲しかっただけなのではないだろうか。
 だから、毎日、努力をしていた。

 ――けれど、イレーネお姉様は死んだ。

 私は死んだなんて、信じていなかったけれど、イレーネお姉様の母親は、側妃の地位を奪われ、後宮からいなくなった。
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