さようなら、お別れしましょう
 そう言っただけで、私は周囲から白い目で見られた。
 ドーヴハルク王家のしきたりで、生まれた王女は結婚するまで後宮から出られない。
 王以外の男性と会うのは、王の許しがあった場合のみである。
 祭りに行きたい、店へ買い物にでかけたい――そんな願いを口にすれば、侍女たちからは『はしたない!』と叱られる始末。
 結婚すれば、少しは自由を得られるのではと期待した。
 けれど、結婚後は兵士や侍女がいて、自由に外出できず、夫とでかけることもなかった。
 結局、嫁いだ今も自由はない。

『レフィカ様。結婚すれば、運命が変わりますよ』

 私にそう言ったのは、後宮に出入りしていた女商人だった。
 ドーヴハルク王国の後宮では、女性しか出入りが許されないため、商人も女性のみと決められていた。
 異国の女商人は、結婚が決まった私に言った。
 何気ない挨拶のような一言だったけれど、それは私に希望を与えたのだ。
 赤髪の女商人の言葉を思い出す。
  
『私が尊敬する方がおっしゃっていました。願いを叶えてもらうのではなく、願いは自分で叶えるものだと』

 ――願いは自分で叶えるもの。

 国々を旅してきたであろう彼女の強い言葉。
 信念を感じた。
 私にだって願いはある。

「形だけとはいえ、お前が正妃だ。それで文句はないだろう」

 愛はなくても、私の正妃という立場だけは守られるらしい。

「なにか他に要求はあるか?」

 私の願いは、心臓に刻まれた五つの【契約】を無効にし、死の運命から逃れ、自由になること。
 忌まわしい死の呪い。
 これを解く方法はない――今のところは。

「今よりも、自由にさせていただけるのでしたら、形だけの妻で構いません」

 五つの【契約】により、私は自分の意思で、別れることができない。
 私の命は父と夫に握られている。
本当の自由を手に入れるには、【契約】を無効にする方法を見つけるしかない。

「今よりも自由にか……」

 イーザック様は顎に手を置き、考える仕草を見せた。
 私が初めて夫に要求したお願いだった。
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