さようなら、お別れしましょう
12 わたくし、新妻です……わよね? ※メリア
――おかしい、おかしいわ。簡単に正妃の地位を奪えるはずだったのに!
イーザック様を誘惑して、正妃の地位を奪う予定だった――それが。
「イーザック様。この魚は北部の海から運ばせたものだそうですよ]
『魚のソテーが美味しいですわね』と続けて会話をするつもりが、返事の代わりに、紙をめくる音がした。
――どっ、どういうことかしら? 愛する恋人が妻になったのに、イチャイチャしないなんて!
イーザック様が王でなかったら、『書類があなたの妻ですの?』と嫌みの一つも言いたいところだった。
食事中くらい、わたくしの顔を見て会話するべきではなくて?
イライラしながら、魚のソテーにザクッとナイフを入れた。
しかも、夫婦の愛を育む大事なひとときだというのに、空気を読めない国王補佐官が、常にそばに控えている。
イーザック様の指示を受けたら、すぐに仕事にとりかかれるようにとのことだけど、甘い雰囲気にもっていけない。
魚のソテーがナイフで切り刻まれ、だんだん細かくなっていく。
――食事中も仕事。朝も仕事、夜は勉強! わたくしと過ごす時間はないの!?
イライラしているわたくしに気づかず、イーザック様は書類を熱心に眺めている。
眺めるのは、書類ではなく、わたくし!
妻でしょう!?
毎日忙しいイーザック様。
わたくしが王宮に来てから、ほとんど放置で、恋人時代のほうが、まだ会話があった気がする。
でも、それがイーザック様の『王の仕事』としての時間だとしたら?
あの態度は、王としての仕事用の顔だったということになる。
――妃が必要だから、身近な女を利用した? そんなわけないわ。わたくしを愛してるとおっしゃったもの!
わたくしが熱い視線を送っていても、イーザック様は少しもわたくしの視線に気づく様子がない。
まるで、空気か置物扱い。
――これが新妻に対する態度ですの?
付け合わせの野菜に、フォークをグサッと突き刺した。
「やはり、兄上の領地のほうが繁栄しているな……」