さようなら、お別れしましょう
「陛下が治めている土地も繁栄しております。比べなくともよろしいのではありませんか?」
「……わかっている」

 わかっていると口では答えていても、イーザック様は苦々しい表情を浮かべていた。

 ――ジグルズ様? ジグルズ様は王位を捨てて、領地に引きこもっているお兄様よね? 

 はっきりとした年齢は忘れたけれど、ジグルズ様はかなり早い時期に『王にならない』と宣言した。
 王にならないと宣言してから、遊学の旅に出てしまい、ほとんど王宮にはいなかった。
 さすがに自分の父親である前国王が亡くなった時は、国へ戻ってこられたけれど、葬儀が済むと早々に領地へ戻った。

 ――何度か見る機会があったけれど、あの方は苦手だわ。

 ジグルズ様の瞳は、イーザック様と同じ琥珀色の瞳をしている。
 でも、同じ瞳の色をしていても、ジグルズ様の目は怖い。

 ――そう……。あの方の前に立つと、自分の嫌なところを見透かされているような気分になるのよ。

 前国王が亡くなった葬儀の席でも、涙一つ見せなかったのが、冷たい性格である証拠。
 イーザック様は母后様と共に、死を悲しんでいたというのに。

「あの……イーザック様? ジグルズ様がどうかなさったのですか?」

 わたくしは控えめに尋ね、にっこり微笑んだ。
 イーザック様はわたくしがいるのを忘れていたのか、ハッとした顔で、こちらを見た。
 
「別になにもない。兄上の近況を補佐官に調べさせただけだ」
「そうですの? 一度、ジグルズ様にご挨拶をしたいわ。イーザック様の妻になったのですもの」
「挨拶など必要ない」
「まあ! わたくしにとって、お義兄様にあたる方でしょう?」

 挨拶をしたいと言っただけなのに、イーザック様は困った顔をする。
 みかねた補佐官が口を挟む。

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