さようなら、お別れしましょう
 イレーネお姉様の名前を知っているなら、ここでなにか反応があるはずと思ったのだ。
 【契約】によって、正妃として嫁ぐドーヴハルク王国の王女たち。
 ジグルズ様は名前くらい聞いているはずだ。

「そういえば、そんな名の妃が他国に嫁いでいたな」
「イレーネお姉様をご存じですか?」
「少しは知っている」

 ――やっぱり知っていた!

 ぎゅっと自分の胸元を握り締めた。
 ここで、ジグルズ様にお聞きしたい――でも、ジェレンがいる。
 もし、イレーネお姉様が生きていて、ジェレンが父に『イレーネ様が生きているかもしれない』などと報告した場合、イレーネお姉様の身が危険になる。
 すぐにでも尋ねたい気持ちを抑え、ジグルズ様に誰にも聞こえないよう小声で言った。

「ジグルズ様。二人でお話しできませんか?」
「二人きりで?」
「はい」

 私が強く念を込めて、ジグルズ様をジッと見つめた。
 私の目力が強すぎたのか、ジグルズ様は少し困った顔をしていた。

「他の人間に聞かれたくない話なのか?」
「そうです」
「……わかった。では、俺の部屋に招こう」
 
 小声で会話を終えると、ジグルズ様はゼリヤに言った。

「ゼリヤ。俺はレフィカに話がある。部屋へ行く」
「えっ? ジグルズ様のお部屋へ!? お二人だけで?」
「ああ。人を近づけるな」
「か、かしこまりました!」

 なぜか、ゼリヤは動揺し、侍女たちは息が止まりそうな顔で驚いていた。
 それを私とジェレンは不思議そうな顔で眺めた。

 ――もしかして、ジグルズ様は自分の部屋に、人を招くことがなかったのかしら?

 社交的な方だけど、個人的な場所へ立ち入られるのは、お好きではないのかもしれない。

「お部屋へ招いてくださり、ありがとうございます」
「美人を招待するのは構わない」
「まあ、お上手ですね」
「俺はお世辞を言う男ではないぞ」

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