さようなら、お別れしましょう
 頭の回転が速いジグルズ様は、これから私がなにを言おうとしているのか、薄々察したようだ。

「私がお聞きしたいのは、【契約】に関することです」
「【契約】の内容はドーヴハルク王とイーザックしか知らないことだ。王と王だけが知っている。イーザックが俺に話せば別だが……」

 イーザック様はジグルズ様に内容を明かしていないらしい。
 たぶん、イーザック様は誰にも言っていない。
 それは父も同じで、私の【契約】のすべてを知っているのは、【契約】を交わした二人だけだ。

「私は四つまで知っています。全部で五つあるそうです」
「五つもあるのか」

 驚いているジグルズ様に、私はうなずいた。
 忌まわしい【契約】について、ジグルズ様はそれなりの知識をお持ちのようだ。
 多くの書物と世界地図。
 ジグルズ様なら、今まで嫁いだ王女についても、なにか知っているに違いないと確信した。

「最大で五つ【契約】できると父に教えてもらいました」
「内容は?」
「王女を正妃として迎える、王女の逃亡を禁ずる、領土を奪わない、妻の不義です」
「自由を奪っているのか……」

 ジグルズ様は眉をひそめ、私の前に分厚い歴史書を置いた。

「グランツエルデ王国には、過去の歴史を記録した本がある。ドーヴハルクの王女が嫁ぎ先にて命を落としたという事件が数回、書かれている」
「それはどういったものですか?」
「領土の侵略が一番多いが、その次に多いのが、妻の不義による逃亡だ」

 妻の不義――つまり、浮気である。
 父は『当然、わかっているだろう』ということに関しては、教えてくれなかったのかもしれない。
 恋を知らずに後宮に閉じ込められる王女たち。
 外の世界を知って、愛のない結婚によって苦しみ、逃亡した王女が過去にいた。
 イレーネお姉様がそれを知って、その過去に起きた事例を参考にした可能性もある。
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