さようなら、お別れしましょう
18 別居後、初めて会う妻(1)※イーザック

 ――兄上が気になる! 

 ただしくは、兄上が治めている領地が気になる!
 商業都市シャルク・ホジャ――急激に発展し、人口が増えている町である。
 補佐官が持ってきた報告書だけでは、よくわからなかった。

 ――実際に町を見てみたい。

「メリア、視察に行ってくる」

 ただ視察に行くと言っただけだが、メリアは王宮前まで追いかけてきた。
 見送りに来たのかと思っていたら、愛する夫の見送りにしては、様子がおかしい。
 厳しい目で俺をにらんでいる。
 
 ――まさかとは思うが、この雰囲気。メリアに浮気を疑われているのか?

「イーザック様。新妻を置いて、視察に行かれるのですか? どちらへ行かれるのですか!?」
「兄上の領地だ」

 メリアから浮気を疑われるような場所ではない。
 
 ジグルズ・ベルクヴァイン公爵は俺の異母兄だ。
 母が違っても、兄上から嫌がらせを受けたことはない。
 兄上は面倒見がよく、俺が叱られた時はかばってくれた。
 優秀で完璧な兄上を尊敬している。
 だが、兄上は王位を捨てて、王宮から出ていった。
 王位を捨てた理由がなんであるか、俺はいっさい知らない。
 ただ、それ以来、父上と兄上は不仲となり、特に父上は死ぬまで、兄上の悪口を言っていた――『あれは失敗だった』と。

 ――人望もあって、優秀な兄上のどこか失敗なんだ?
 
 いまだ父上が言った『失敗』の意味がわからずにいた。
 失敗だったのは、できの悪い俺のほうだろう。
 兄上ほど賢くなく、妻一人、うまく扱えない。
 
「イーザック様! 休暇を取って、わたくしと旅行するとおっしゃったではありませんか!」

 メリアは泣きそうな顔をし、腕にすがりついてまで、俺を引き留めた。
 恋人同士の時には見られなかったメリアの姿に戸惑った。

「そのうちな。予定には入れてある」
「そのうち!? そのうちとは、いつですの? 明日ですか? それとも、明後日?」

 ――数ヵ月後くらいのつもりで言ったんだが……

 王というのは、そんなにヒマではない。
 予定は数か月先まで詰まっていることが多く、メリアとの旅行も補佐官に頼んで、無理やり入れてもらったくらいだ。
 だが、明日か明後日かと言うにメリアに、『数ヵ月後だ』とは言い出しにくく、返事ができなかった。

「もしかして、レフィカ様とお会いするつもりですの?」
「レフィカ? なぜ、レフィカと?」

 返事に窮したら、すべて浮気したと思われるのか?
 夫婦の会話は不可解だ。
 結婚初心者の俺には、まだ高度すぎる会話だ。
  
「いつもとは違う場所で、特別な時間を過ごすおつもりでしょう? わたくしに飽きたんだわ!」

< 82 / 194 >

この作品をシェア

pagetop