さようなら、お別れしましょう
 俺が『忙しい』と言えば、すぐにメリアは『申し訳ございません』と謝り、俺の都合に合わせて、会いに来た。
 恋人時代のメリアは、俺に不満を言ったことがなかった。
 従順で控えめな彼女なら、俺を支えてくれるのではと期待したのだが――
 
「メリアには妃の仕事があるだろう?」

 今のセリフのなにがよかったのか、メリアの顔が晴れやかなものに変わり、笑顔になった。

「妃の仕事……わたくしが妃……」
「わかったら、妃の仕事をしろ。妃は王の不在を守るべきではないか?」
「ええ! わたくしの仕事を思い出しましたわ!」

 メリアは嬉しそうな顔をして、胸の前に両手を組んだ。

「イーザック様もお茶会に出席してくださいますか?」
「俺がお茶会に……? 妃の仕事がお茶会……?」
「ええ。令嬢や貴婦人を招いてのお茶会は、妃の大切な仕事の一つですわ」

 可愛らしくメリアが、上目づかいでお願いしてくる。

 ――どうする? ここで断れば、また機嫌を損ねるかもしれない。だが、令嬢たちに混じって、お茶会に参加するのも……

「イーザック様?」

 メリアの笑顔が怖い。
 旅行に連れていけるのは、数ヵ月後。
 メリアにも楽しみは必要だ。

「……わかった。出席しよう」
「妃としての初めてのお仕事ですわね! 頑張りますわ!」
「あ、ああ……」
 
 妃としての仕事なら他にもある。
 レフィカならば――そこまで考え、ハッと我に返った。
 今、俺はなにを考えた?
 
「あなたの妻としてデビューする記念の日になりますわ」
「そうだな……」

 喜んでいるメリアを見て、後ろめたさを感じた。
 無意識とはいえ、レフィカとメリアを比べてしまった。
 それをメリアに気づかれるわけにはいかない。
 俺が愛しているのは、メリアのはずだ。
 
 ――はず? メリアと言いきるところだろう?

 自分の心臓に手を置いた。
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