さようなら、お別れしましょう
 なにかがおかしい。

「……視察にいってくる」
「イーザック様、いってらっしゃいませ!」

 満面の笑みを浮かべたメリアに見送られ、侍従を連れて馬車に乗った。
 補佐官を留守番役にしたのは、俺が王宮にいると思わせるためだ。
 わずかな護衛の騎士と、侍従を一人だけ連れたお忍びの視察。

「陛下、お疲れのようですな」
「ああ。結婚すると、こうも相手の性格は変わるものなのか?」
「ははは。一人の時とは、また勝手が違うものです。自分なんぞ、妻のいいなり……いやいや、妻への思いやりと気配りを心がけております」

 俺とメリアのやり取りを一部始終見ていた侍従は、既婚者のベテランとして、俺をねぎらってくれた。
 馬車の中はいつもどおりの空気で、ようやく気分が落ち着いてきた。

「侍従。レフィカの旅先はどこだ?」
「は……? レフィカ様でございますか? いえ、その……知らない方がよろしいのではないかと……」

 侍従は言葉を濁した。

「どこだ?」
「聞けば、またメリア妃と面倒なことになるかもしれませんので……」
「俺は浮気をするわけでは……」

 俺は『レフィカと浮気するつもりはない』と侍従に言いかけたが、違和感があった。
 なぜなら、レフィカは俺の妻だ。
 浮気というのもおかしい。

「陛下はレフィカ妃に興味がないとおっしゃっておりませんでしたか?」
「今もそれは同じだ。早く言え。旅先を聞いたくらい、なんだというのだ」

 はっきり行き先を口にしない侍従に苛立ち、返事を促した。

「シャルク・ホジャでございます。シャルク・ホジャへ行ったと、補佐官殿から聞いております」

 ――兄上の領地へ?

「まさか、会ったりしないだろうな?」
「ジグルズ様がお会いしたいと思えば、わかりませんが、レフィカ様のご予定には、入っておりませんでした」

 兄上がレフィカに興味をもち、会うかもしれない。
< 85 / 194 >

この作品をシェア

pagetop