さようなら、お別れしましょう
「恋人? 兄上がレフィカを?」
「レフィカ様は美人でございますからな」

 レフィカは【契約】の内容をすべて知らない。
 ドーヴハルク王は『娘には、逃亡すれば死ぬぞと伝えてある』と言っていた。

 ――もし、レフィカが残り四つの内容を知らなかったら?

 内容をすべて知っているのは、俺とドーヴハルク王だけだ。
 もし、レフィカが浮気すれば、【契約】によって死ぬ。
 そして、同盟は消滅する。
 メリアとの結婚を諦めてまで、ドーヴハルク王国との同盟を選んだ。
 ここでレフィカに死なれては、俺はなんのためにレフィカと結婚したのかわからない。
 
「侍従。兄上の屋敷へ向かう」
「はっ、はい! では、馬車へ……」
「馬を寄越せ。先に行く!」
「陛下!?」

 騎士が乗っていた馬を奪い、侍従たちを置いて、兄上の屋敷へ向かう。
 背後から、侍従たちが『お待ちを!』『危険です』と言って止めるが、こっちは国の危機だ。
 
 ――くそ! 『妻の不義』など【契約】に入れるのではなかった。いや、入れたほうがよかったのか?

 同盟を結ぶにあたって、ドーヴハルク王が【契約】の内容を提案してきた。
 それを俺が承諾した。
 なにしろ、不気味な力だ。
 心臓に文字を刻み、それに逆らったら死ぬなどと、呪いだとしか思えない。

 ――よく平気な顔で、娘の命を犠牲にできる。

 それを利用した俺も同類だが、国境の争いはなくなり、兵力に余裕ができた。
 調子に乗っていた他の国々は、おとなしくなり、内政に集中できるようになった。
 だが、兄上のように、村や町を発展させようとしてもうまくいかない。
 それで、今回の視察というわけだ。
 小高い場所に、王宮のような大きな建物が見えた。
 あれが、兄上の屋敷だ。
 補佐官の報告書によれば、雨季に運河が氾濫した時のことを考え、兄上は小高い場所に屋敷を建てたという。
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