さようなら、お別れしましょう
 イーザック様は二十三歳で、二つ上のお兄様は独身。
 大臣たちはイーザック様に期待しているようだ。

「そんな! 王宮から追い出すなんて、レフィカ様がおかわいそうですわっ! 夫にも愛されず、頼れる人もいない国で、寂しい生活をされるなんて、わたくしなら耐えられないわ……!」

 興奮したメリアが倒れるのではと心配したのか、黒髪の侍女が現れた。
 黒髪の侍女はメリアに寄り添い、体を支えた。

「メリア様。大丈夫ですか?」
「ベルタ……」
「陛下がお決めになられたことですわ。メリア様は悪くありません」

 ベルタと呼ばれた侍女はじろりと私を見て、声を発せず、口だけを動かした。

『蛮族のくせに』

 口の動きだけでわかる短い蔑みの言葉。
 北の民族ドーヴハルク人に、領土を奪われたグランツエルデ王国。
 この国では、『蛮族』『野蛮人』などと言って、ドーヴハルク人をさげすむ人がいる。
 大昔、ドーヴハルク人は騎馬戦術によって、グランツエルデ王国を圧倒し、北の広い海と大地を支配した。
 いまだ両国は国と国の境が定まらず、たびたび小競り合いが起きている。
 けれど、グランツエルデ王国は大国で、ドーヴハルク王国ばかりに戦力を割いていられない。
 他の国とも国境を接しているグランツエルデ王国。
 イーザック様が即位してから、他国と友好関係がうまくいっていないという事情がある。
 だから、私との政略結婚を承諾し、ドーヴハルク王国と同盟を結んだ。
 たとえ、心の中で『蛮族』と思っていようとも――ベルタの突き刺さるような視線が痛い。

「レフィカ様。ごめんなさい……。妻の地位を奪うつもりはなかったのに……どうしても、イーザック様を諦められなくて……」

 メリアは私に謝罪し、涙をこぼした。
 もちろん、演技である。
 手でうまく口もとを隠しているけど、笑みが隠しきれてない。
< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop