True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP10

 季節は冬、クリスマスが近づいてきたころだった。
 私は職業訓練校で座学と実技に追われていた。
 タケさんと私は相変わらず2時間の通話を毎日続けていた。
 彼のことが少しずつ分かってくる。

 彼は現在33歳、フリーターであること。
 大学を卒業してからずっと追いかけている夢があること。
 時間に自由が利くのはそういうことらしく、彼の職場も一般企業とは違って、随分自由な環境のようだ。関東で一人暮らし。
 あの掲示板に「フレンド募集」を書き込んだ背景として、恋人と別れたことも教えてくれた。
 彼の話では、年上だった彼女から何度も結婚を求められ、それが原因で口論になったらしい。
 私は言葉を失った。
 私にとってもそれは他人事ではなかったから。

「年齢的に結婚を焦るのはわかる。俺だってそういう歳だし、おかんを安心させてやりたい気持ちもあるし……」
「うん……」
「でも夢があるんだ。もしかしたらもうすぐ届くかもしれない……そう考えたら、結婚はどうしても先延ばしになる。それに彼女とどうしても結婚したいかどうかも判断がつかなくてさ……」

 珍しくしんみりとした話になったと思った。
 いつも陽気な彼の本質が見えた気がした。
 同時にタケさんが心を曝け出してくれることが嬉しかった。

「夢があるって素敵なことだし、周りに流されずにその夢に向かっていくの、すごいと思う」

 私は看護師になりたかった。
 そのための学校も苦労して入った。
 でも現実は甘くなかった。血を見ただけで倒れる。吐く。そんな私に医療の現場は合わなかった。

「由惟の夢って、看護師さんか~。白衣の天使、そんなイメージあるわ」
「そうかな?」
「制服とか着た写真、見てみたかったな。絶対そそる」
「んもう、油断するとすぐそっちの方向持っていくんだから!」

 白衣の天使に憧れるのは男のサガってヤツだよ!と、タケさんは慌てる。
 エッチな想像は断じてしていない、と否定してくる。
 そして声のトーンを変えて何でもなかったように話を元に戻す。
 これはタケさんの癖だ。

「人の役に立つ職が夢なら、ナースに限らないだろ? 視野が狭くないか?」
「それはあるかも……」
「由惟が今できることに真っ直ぐなのは、俺も嬉しい」
「どうして?」
「俺も負けらんねーって思うから」

 それは私も同じなんだよ。
 タケさんはずっと前を向いてる。
 そんなあなたに追いつきたくて、手を伸ばしたくて前に進んでる。

「タケさんは……クリスマスは、1人? 私は家族と過ごすことになりそう」

 沈黙。
 カタカタと急にキーボードを叩く音が聞こえる。
 時々、カチッと何かをクリックする音も混じる。
 なにかのサイトを見ているんだと思った。スクロールするような音も聞こえたから。

「……会いに行くと言ったら?」
「今はダメ」

 タケさんと会いたくないわけじゃない。
 クリスマスは丁度生理とぶつかる。
 折角会えるのに腹痛でそれどころじゃないのは嫌だ。
 って待って、私、なに考えているの?
 今大事なのは恋よりも訓練校のカリキュラムを無事に履修することだ。

「そうだよな、忙しいよな」
「私は、いつでも会いたい」

 クリックの音が突然止まる。
 一呼吸置くかのような吐息が聞こえる。
 それはどこか切なさが混じっていて――。

「……俺に?」

 どうして自信がなさそうに語尾を上げるのか。
 私は答えられなかった。
 もう告白してるようなものだと思いながら。
 私は恥ずかしくなってクッションに抱き着く。

「由惟」

 タケさんが私を呼ぶ。
 ズルい。そんな甘い声で囁かれたら――。

「……会いに行くよ。というわけで誕生日を教えてくれ」
「え……誕生日に、来てくれるの?」
「うん」

 いま何が起きているのかわからなかった。
 ただ会いに行く、その言葉だけがリフレインしてずっと響いた。

「7月13日」
「わかった」

「タケさんの誕生日は?」
「俺は……忘れたな」
「え~、教えてくれないのズルい!」
「……9月12日だよ」

 その日がスッと私の脳内に刻まれる。
 同時に、おとめ座というデータにも行きつく。

「相性バッチリだね!」
「なんの?」

 ズバリ聞かれて私は慌てる。
 思わず心の声が出ちゃった。これはヤバい。

「そうなるように頑張るか……」

 照れくさそうな声。
 心の中でドクンと深く何かが疼いた。
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