True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP11

 2006年12月24日。
 職業訓練校の友達に飲みに誘われたのを断って、私は家に急いだ。
 携帯電話の通話料が毎月万越えなのが苦しくなって、私達はそれぞれ、指定した一人との通話が定額になるサービスに申し込んだ。お互いの電話番号を登録すれば、通話時間を気にせず話せる。
 たったそれだけなのに、私はタケさんに近付いた気がしていた。
 私はある程度家族とイブを楽しむと、部屋に籠る。

「タケさん、メリークリスマス!」
「おう、メリクリ!」

 安い缶チューハイと、フランチャイズのチキン。デザートのクリスマスケーキ。
 お互いの声を聞きながら二人きりのイブを楽しむ。

 動画共有サイトでクリスマスソングを聞きながら、私達は好きな音楽を共有し合った。
 私がお気に入りのラブソングをタケさんに伝えた時だった。
 タケさんの声がいつもよりも甘く、私を呼ぶ。

「あのさ由惟……武って呼んでみて」
「え……武?」
「惜しい」
「んん? 名前を呼ぶだけじゃダメなの?」
「もっとエロく」

 その声は媚薬と同じ。
 耳元で囁くように聞こえる息遣い。

「……武」
「うん、そんな感じ……」

 その声は食べているクリスマスのチョコレートケーキよりも甘い。
 今何をしているの?とは聞けなかった。
 彼がこの場に居ないのに、彼に抱かれているような気分になる。

「由惟……」

 携帯電話を肩に挟んで、ベッドに横になる。
 こんなのダメだと思っていても、火照ったからだが求めてしまう。
 ――彼を。

「ごめん……」
「ん……武……」

 私も甘い声を出す。
 でも止められない。止まらない。止めたくない。
 暫く、電話の向こうもこちらも無言だった。

 -*-

 すこし重たい静寂。

「いつから私を想ってくれていたの?」

 私は聞いていた。

「わからない。……声を聞いてからはもう止まらなかった」
「私もきっとそう」

 涙がぽたんと落ちた。

「……由惟、好きだ」
「私も……タケさんが……、武が好き」

 言ってしまってから思った。
 もう彼がいない生活は考えられないと。

「名前と声だけなのに、それでも恋人って言ってもいいのかな?」
「……俺の顔が気になる?」
「うん」
「少し待ってて、一旦切る」

 再び訪れる静寂。
 外を見れば雪が降り積もっている。

 メールが届く。
 写メ、だった。

 武は明るい茶色の髪と、ダークグレイの目をした男性だった。
 濃紺の作務衣を着ているあたり、武っぽい。
 縁なし眼鏡をかけている。
 緊張しながら撮ったことが伺える、不器用な微笑みの一枚。

「これは私も撮らないとダメな奴じゃん……」

 私はすっぴんだったことに気が付く。
 ちゃんと化粧をして、髪もセットして。
 着ている部屋着ではなくて、お気に入りのワンピースを着用する。
 アクセは……とりあえず要らないか。

 初めて撮る自撮り。
 武のために私は私を映し出す。
 パシャっと慣れない手つきで撮る。
 うわ、妙にドアップでキモイ。
 結局あるもので何とか撮った一枚を、武に送る。

 送ってから、武の返信が怖くなった。
 もし、気に入ってもらえなかったらどうしよう……。
 不安を必死で抑えつけながら化粧を落とす。

 メールが入る。武からだ。

『……由惟、写メありがとう。電話してもいい?』

 それを見て私はすぐに掛けた。

「由惟?」
「写メ見せてくれてありがとう。武……33歳って言われないと分からないし、同い年くらいに見える」
「そうか……オッサンくさいって言われなくて良かった」
「ううん。というより私のほうが変じゃない?」
「変じゃない。その……可愛くてやばい……」

 呼吸が止まる。
 キスしてるみたいだった。
 お互い、もう顔も名前も声も知ってる。
 私達は少しずつ近づいている。

「誕生日が待ち遠しいなんて思ったの、初めてかも」
「必ず会いに行くから、待ってて」

 この会う約束を彼は違えなかった。
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