True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP12

 2007年3月18日。
 去年のこの日、私と武は繋がった。

「記念すべき一周年を祝して」

 という武の音頭で私たちはお酒を飲んだ。
 電話越しの乾杯。
 私の職業訓練校も無事すべてのカリキュラムを終え、修了に至った。
 武はお祝いと言って、青紫色の薔薇を1本送ってきた。
 添えられたカードには、『修了おめでとう。尊敬と、喝采を由惟に』と書かれていた。

 私は書店で観光ガイドブックを購入した。
 武に私の街を知って欲しかった。
 武と会う三日間。ちゃんと思い出を作りたかった。
 けれども私にはもう一つ最大の問題があった。
 それは武と会おうとしていることを両親にどう伝えるかということだ。

 ちなみに私の家族の中でたった一つルールがある。
 家族に「嘘」をつかないことだ。
 何月何日、誰とどこで会うか。泊まるのか、帰ってくるのか。
 親は成人してからもそうした情報を求め続けた。

 どう考えても武と会うことは反対されそうな気がした。
 いや反対される結末しか見えない。
 デートプランよりこの親問題をどうしようかということで、私は何か月も悩み続けた。

「由惟……最近、ため息が増えたな」

 それはいつものように一緒に動画を視聴している時だった。
 動画がつまらないわけじゃない。
 私はドキッとして、慌てて答える。

「そ、そうかな?」
「ホントは俺と会いたくない……いや、会うのが怖い?」
「そうじゃないの」

 武に呆れられたくなかった。
 でも隠し通すのも良くない気がした。

「聞いてくれる? 私の親のこと……」
「俺が聞いてもいいなら」

 私は武と会うことを親に話せずにいることを正直に話す。
 と同時に私の両親がどんなタイプなのかも伝えた。
 真面目で堅実。おまけに慎重で、常識から外れたことはしない。

「由惟のご両親は何も間違ってないよ。……だからここは俺にかかってる」
「そんな。武に迷惑をかけたくないのに……」
「これは今だけの問題じゃない。俺は由惟と会えたらそれで終わりって考えていないし」
「それって……?」
「ちゃんと交際したいんだ。ネット発だからいい加減な関係でいいわけじゃない」

 武の言葉が嬉しかった。
 たまたま出会いのきっかけがネットだっただけで、二人で築いていく関係は未来に向かっていくものだと、そう言ってもらえた気がした。

「武のご両親は私と会うことは反対していないの?」
「俺の親父は日本人じゃないし、おかんとは離れて暮らしている。まあ男が30過ぎればこんなもんだな」

 父親について触れる時の、武のドライな言い方が妙に気になった。
 でもハーフだとすれば、武のダークグレイの目の謎が解ける。
 武のお母さんも口にしないだけで心配はしていると思う。
 でも私はそれを武には言わなかった。
 だってそこは私が口を出していい領域じゃない。
 だから本来ならば私の親の問題に武を巻き込みたくなかった。

「わかった。ちゃんと親に話すよ。武に迷惑をかけられない」
「由惟と会いたい。だから俺が勝手に会いに行くだけで、由惟は無理しなくていい。俺は由惟が住んでる街を見れればそれで――」
「ダメ! 絶対ダメ! 会わずになんて……」
「由惟……」
「私にやれることは頑張る。それでも力が及ばなかったら、その時は頼っちゃうかもしれない。武はなんでも自分一人で頑張っちゃうところがあるから、少しは私にも頼って……」

 電話の向こうで、鼻をかむ音が聞こえた。

「あ、ごめん。鼻水が……」
「んもう! ちゃんと私の話、聞いてた?」
「聞いてたよ。ありがとう、俺一人で突っ走るところあるってよく言われるからさ、由惟に言われて、びっくりしてさ」

 また鼻をかむ音が聞こえた。

「俺には由惟がいるもんな。初めてなんだ、ちゃんと背筋伸ばして生きようって思ったのってさ」

 武が話してくれたのは、クリエイターとしての道がどれほど厳しいかということだった。実力があってもそう簡単には認められない世界。
 それは先の見えないトンネルをひたすら走り続けるようなものだ。
 私の視界が涙で歪む。

「辛くないかと言われれば辛い。だけど、ゼロからやっとここまで積み上げて今のポジションに就いたんだ。だから……自分に負けられないんだ、せめて結果を出すまで」

 武も必死なんだ。
 私は? 夢に向かって真摯だったことがあった?
 ダメだと諦めてしまってから、なにを努力した?

「困難なことに立ち向かうのは慣れてるほうだよ。そして俺は由惟を手放せそうもない……ごめんな、こういうヤツで」
「そんなことないよ。そんな武を好きになったんだもん」
「ありがとう」

 -*-

 私は親に正直に話した。
 当然のように親は反対したし、会うなら家を出ろとまで言われた。
 初めて父と口論になった。
 家を出る覚悟もあった。
 今ここで武に会わなければ、私は一生後悔したまま生きる気がしたから。
 その判断は後になって半分正しいと思うし、半分間違っていたと思った。
 けれども結局、武がいてくれたから私は、もう一度自分を見直せたのだと思う。

 4月に就職を果たし、生活を整えてから武と会うことにした。
 その間も武との時間は続いた。
 私は何も怖くなかった、武と一緒に歩いて行く未来が見えたから。
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