True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP14

 武と合流した後は、私の街の中心部まで列車を使って向かう。
 窓際に私が座り、その横に武が座る。
 ふわりと微かに香るハーブのような涼しげな香り。

「着けてる香水って、ミント系?」
「うん、気に入ってつけてる。由惟からは柑橘系の甘い香りがする」

 武は、ばっちりチェック済みだった。
 これは恥ずかしい。

「近い!」
「そりゃ隣に座ってるから近いよ?」

 そう言って顔を近づけて来る。わずかに混み始めた車内が気になった。
 まさか公衆の面前でキス?かと思って身構えると、武は小さく笑う。

「今はまだこっちね」

 そう言って髪の一房に触れるだけのキスをする。
 それだけで私の全身の熱量が小さく爆発する。
 列車内に響く目的地到着のアナウンス。
 車窓をみればビル群のネオンサインが見えてくる。

「うぉ~、涼し!」

 駅のホームに降り立った武の、第一声はそれだった。
 この気温が涼しいなんて、武の街はどんだけ暑いんだろうか?

「由惟、ちょっとチェックインだけしていい?」
「うん」
「その後は、良さげな店に予約してあるからさ、うまいもん食べようぜ」
「ええっ、予約しちゃったの? ファミレスで良かったのに……」
「欲のない子やなあ……。折角来たんだし、たまにはいいだろ」
「じゃあ食事代くらいは私が持つよ!」
「考えておくよ」

 武は本当に初めて来たのか? と疑うほどスムーズに広い駅を歩く。
 そんな武の半歩後ろを、手を引かれながらついていく。
 時々携帯でネットを検索しながら、正確にホテルまでの最短距離を歩く。
 着いたのは、中央にある大きな市民公園近くのビジネスホテル。
 残念なことに武が取った部屋はシングルで、今日は満室ということだ。
 ロビーで待つ私に、武は荷物を置いて来るからと告げる。

「由惟、終電には間に合わせるから、ちゃんと帰るって約束して」
「でも……」
「朝になったらまた会えばいいだろ。親に心配かけるのはダメだ」
「わかった」

 武がいなくなった後で、私は自宅に電話をかけた。
 泊まらずに終電で帰ると告げると、母は何も言わなかった。
 深いため息をつきながら、ホテルを見まわす。お洒落なホテルだ。
 どれだけ武にお金を使わせてしまったんだろう。
 せめて食事代くらいは私が出したい。そう思いながら、武を待った。

 -*-

 武は10分くらいですぐにロビーに戻ってきてくれた。
 少し肌寒かったのか、ジャケットを羽織る。
 ついでにあの縁なし眼鏡もかけている。
 ただそれだけなのに、私には武がカッコよく見えた。

 そんな武と一緒に向かった先は、本格イタリアンの店だった。
 店の構えから、そこそこお高いんじゃないかと思われた。
 その予感は外れず、渡されたメニューにはため息が出るほどの数字が並ぶ。

「あ、コース頼んでるんだ。飲み放題つけてるから、好きなの頼んでいいよ!」

 なんというスマートさ。デート慣れしてるのがうかがえる。
 武はずっと白ワインだ。肉料理が出てきたときだけ赤ワインに替えるくらい。

 私はお酒にあまり詳しくない。アルコールより雰囲気に酔うタイプだ。
 終電で帰らなければいけないことを考えて、軽めのカクテルを作ってもらう。

「出逢いを記念して!」

 武と乾杯をする。
 武はピッツァが好きなのだとか。
 いつか私が作ったピッツァを食べてみたいと言う。
 そうしてデザートのティラミスが運ばれてきたとき。
 武がジャケットのポケットから小さな袋を取り出す。

「由惟、誕生日おめでとう」

 渡されたのは、小さなシルバーのファッションリングだった。
 石座には小ぶりのアクアマリンが1つ付いていた。

「ありがとう。でも待って、随分小さくない?」
「マジか。……小指にすら入らないだと!?」
「ごめん……ダイエットする……」
「いや、サイズ間違えたな……やべえ」

 この展開は武も想定していなかったようだ。
 肩を落とし、がっかりとうなだれている。

「ペンダントにすれば、仕事中も付けられる。これで良かったの。ありがとう」

 それに初めて武から直接手渡された誕生日プレゼント。
 嬉しくないわけがない。

「由惟……!」

 私は付けていたネックレスのチェーンに指輪を通した。
 落とさないようにするために。

 この時からこの指輪は、私のお守りになった。
 今なお手放せない、大事な宝物だ。
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