True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~
EP27
2008年3月16日の夜。
武からの電話が鳴った。
3コール目で私は通話ボタンを押す。
でも今日はいつものように明るい声を出せなかった。
「……由惟? 元気なさそうだな。何かあった?」
本気で心配しているのがわかる。
武は優しい。
声を聞いただけで、なんとなく察してしまう鋭さもあった。
「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ」
「そうなんだ、辛いならまた明日電話――」
私は慌てて武の言葉を遮った。
「ホントに大丈夫。武と話せるの、楽しみにしてたんだから!」
いつだって楽しみにしてる。
それは嘘じゃない。でもこのどうにもならない感情を拭って欲しかった。
いつも通り繋がっているという「安心」で。
「……それならいいんだけど。まあ俺も、由惟と話せるのを楽しみにしてる」
「本当に?」
「うん」
こういうとき、武は私の欲しい言葉をくれる。
だからこの言葉に寄り掛かってしまう。ダメだと分かりながら。
「俺だって色々あるさ。今年も由惟に会えると思えば、毎日戦える……由惟のおかげなんだ」
「待って。今年も、来てくれるの……?」
武が会いに来てくれる。
それは魔法の言葉だ。
「当たり前だろ? ただ誕生日はスケジュール的に厳しいから、5月あたりに行こうと思うんだけど……都合悪い?」
「5月の……いつ?」
「中頃かな」
「それだったら何とか出来るかも……あ、夜勤変わって貰えば……」
「仕事を優先にした方がいい」
武はピシャリと告げる。
低い声で静かに断言するとき、それは大抵私のためだ。
私のために叱ってくれる時だ。
でも武はいつも会えるわけじゃない。
仕事は私じゃなくても代わりがいれば成り立つ。
どっちが優先されるかなんて、わかりきってる。
「一応、聞いてみる。変わって貰えたら、ラッキーってことにするよ」
「うん。……無理しなくていいからな?」
武ばかり無理させたくない。
結果的に、4月後半の夜勤を多めに引き受ける代わりに、5月の武が来る日程は夜勤を外してもらえた。
-*-
4月も終わりに近づいたある日。
仕事に行く支度をしている私に、母が声を掛けた。
「由惟、また夜勤なの?」
「うん」
「このところ随分続いてるわね。ちゃんと睡眠時間、取れてないでしょう」
「仕方ないじゃない、そういうシフトだし、そういう仕事なんだから」
「彼が来るからじゃなくて?」
「そんなこと――」
母は深いため息を漏らす。
「最低でも6時間は睡眠時間を取りなさい。……会わせないわよ」
「ちょっ……」
「由惟の仕事は、人の生活に関わる仕事でしょう? 無理をして判断を誤ったら、その責任が取れるの?」
何も言えない。
母は何も間違っていない。
「わかった。……行ってくるね」
人のために役立つ仕事に就きたいと思って始めたこと。
――私の夢。
でも夢は夢でしかないんだろうか。
私にこの仕事はちゃんと向いていたんだろうか。
本当に、この仕事を選んで正解だったんだろうか。
自問自答しても答えは出ない。
それでも私は、ようやく手に入れた「正規雇用」を失いたくなかった。
武からの電話が鳴った。
3コール目で私は通話ボタンを押す。
でも今日はいつものように明るい声を出せなかった。
「……由惟? 元気なさそうだな。何かあった?」
本気で心配しているのがわかる。
武は優しい。
声を聞いただけで、なんとなく察してしまう鋭さもあった。
「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ」
「そうなんだ、辛いならまた明日電話――」
私は慌てて武の言葉を遮った。
「ホントに大丈夫。武と話せるの、楽しみにしてたんだから!」
いつだって楽しみにしてる。
それは嘘じゃない。でもこのどうにもならない感情を拭って欲しかった。
いつも通り繋がっているという「安心」で。
「……それならいいんだけど。まあ俺も、由惟と話せるのを楽しみにしてる」
「本当に?」
「うん」
こういうとき、武は私の欲しい言葉をくれる。
だからこの言葉に寄り掛かってしまう。ダメだと分かりながら。
「俺だって色々あるさ。今年も由惟に会えると思えば、毎日戦える……由惟のおかげなんだ」
「待って。今年も、来てくれるの……?」
武が会いに来てくれる。
それは魔法の言葉だ。
「当たり前だろ? ただ誕生日はスケジュール的に厳しいから、5月あたりに行こうと思うんだけど……都合悪い?」
「5月の……いつ?」
「中頃かな」
「それだったら何とか出来るかも……あ、夜勤変わって貰えば……」
「仕事を優先にした方がいい」
武はピシャリと告げる。
低い声で静かに断言するとき、それは大抵私のためだ。
私のために叱ってくれる時だ。
でも武はいつも会えるわけじゃない。
仕事は私じゃなくても代わりがいれば成り立つ。
どっちが優先されるかなんて、わかりきってる。
「一応、聞いてみる。変わって貰えたら、ラッキーってことにするよ」
「うん。……無理しなくていいからな?」
武ばかり無理させたくない。
結果的に、4月後半の夜勤を多めに引き受ける代わりに、5月の武が来る日程は夜勤を外してもらえた。
-*-
4月も終わりに近づいたある日。
仕事に行く支度をしている私に、母が声を掛けた。
「由惟、また夜勤なの?」
「うん」
「このところ随分続いてるわね。ちゃんと睡眠時間、取れてないでしょう」
「仕方ないじゃない、そういうシフトだし、そういう仕事なんだから」
「彼が来るからじゃなくて?」
「そんなこと――」
母は深いため息を漏らす。
「最低でも6時間は睡眠時間を取りなさい。……会わせないわよ」
「ちょっ……」
「由惟の仕事は、人の生活に関わる仕事でしょう? 無理をして判断を誤ったら、その責任が取れるの?」
何も言えない。
母は何も間違っていない。
「わかった。……行ってくるね」
人のために役立つ仕事に就きたいと思って始めたこと。
――私の夢。
でも夢は夢でしかないんだろうか。
私にこの仕事はちゃんと向いていたんだろうか。
本当に、この仕事を選んで正解だったんだろうか。
自問自答しても答えは出ない。
それでも私は、ようやく手に入れた「正規雇用」を失いたくなかった。