True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP28

 2008年5月18日。
 武は朝早い便に乗ってやって来た。
 今年も2泊3日の予定だ。
 今日は夜勤明けだった。
 その代わり明日と明後日は公休にすることができた。
 夜勤を替わってくれた菊池さんには感謝しかない。

 私が仕事を終えて駅に行くと、武は小説を読みながら待っていた。
 面白い小説なのか、夢中になっていて私の足音にも気が付かない。

 仕方がないので、少し距離を置いて隣に座る。
 いつ気が付いてくれるか、期待に心を膨らませながら。
 そして――

「わっ! 由惟?」
「えへへ……武!」
「声を掛けてくれれば良かったのに……」

 小説のタイトルは聞いたことがなかった。
 私の視線が小説に向いていることを知ると、武は――。

「か……官能小説じゃないからな!」
「そんなこと一言も言ってないよ? ……怪しい」
「愛してた恋人が急に居なくなる物語なんだ」
「ミステリー?」
「恋愛ファンタジーかな」

 意外だと思った。
 少女漫画とか女性が好きそうな小説は読まないだろうと思っていたから。
 また新しい武を知った気がする。

「……本と音楽が好きなんだよ。気に入った作品は何度も楽しむんだ」
「武も?」
「……おや奇遇だね。俺たちこんな意外な共通点があったなんてな」
「ホントだね。毎日ずっと繋がってるのにね」
「任せろ、もうすぐ由惟マスターに昇格できそうだ」
「なにそれ!」

 武が私に手を差し伸べる。
 その手を取って、私達は、久しぶりに同じ場所で過ごす3日間を迎えた。

 -*-

 武と向かったのは、武が泊まるビジネスホテルだった。
 昼前から利用できるプランがあるらしい。
 去年のビジネスホテルよりもグレードアップしている気がしてならない。
 しかも部屋は広々としたダブルルーム。

「どうしてダブルベッド?」
「……由惟、ちゃんと寝てないだろ。知ってるんだからな!」

 どうしてわかったんだろう。

「まずは3時間くらいは寝ること。今日は食事を一緒にして送るよ」
「なんで? 寝ちゃったら時間が……」
「俺が由惟を一人で寝せると思った? ぐふふ」

 武が悪戯を企んでいるようなポーズをとる。
 私は武が何を考えているのかわからず、武の目をただ見上げた。

「寝てる時もちゃんと由惟のそばにいる。添い寝がしたいんだ」
「そんな……そんな理由でダブルの部屋を取ったの?」
「そうだよ?」

 しれっと答える武。

「私は泊まれないんだよ? 勿体ないじゃない……」
「俺にとっては惜しむべき金じゃない。必要なサービスだし、そのために払う価値はある」
「じゃあ私の分は私が出す!」
「……頑固だなあ」
「頑固だもん!」
「……じゃあ夕飯は由惟の奢りかな。ならいいだろ?」

 そう言われて私は渋々財布をしまう。
 武は持参したパジャマを取り出すと、私に背を向けてサッと着替えた。
 私に備え付けの室内着を手渡して、布団をめくってさあ来い!と言わんばかりだ。

「もう……」
「ねえねえ、寝顔写メとってもいい?」
「絶対ダメ!」
「ガーン」

 心底残念そうにする武。
 着替えた私を優しく引き寄せて、武は腕枕をする。
 武の心臓の音が聞こえる。
 いつの間に用意したのか、部屋には小さく波の音が流れていた。

「おやすみ、由惟」
「武……」

 頭を撫でる優しい手。
 額に穏やかなキスが降ってくる。

「……愛してる」

 確かにそう言われたはずなのに、その言葉は私には届かなかった。
< 29 / 49 >

この作品をシェア

pagetop