True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP29

 私がハッと目を覚ますと、顔のすぐ隣にドアップの武。
 ――わ、近い!
 武は添い寝じゃなくて普通に寝ている。
 しかもごにょごにょと聞きとりづらい寝言を言ってる。
 顔が妙に嬉しそうだ。
 私の夢でも見てくれているんだろうか? なんて己惚れてしまう。

 時計を見ると16時。
 ガッツリ寝てしまった。なんてこと。
 私はベッドから起き上がった。
 途中まで読んでいたのか、サイドテーブルにさっきの小説がある。
 私は鞄からメモ帳とペンを取り出し、その本のタイトルをメモる。
 武と同じ作品を読んでみたかったから――。

 武が寝ぼけて私を探し始める。

「由惟……? いない……」

 焦点の定まらない目。ダークグレイの目が揺れている。
 武の、不安そうな顔を初めて見た気がした。
 私はベッドに戻って、武の頬にキスをする。

「由惟……いた……」

 ホッとしたような顔。まだ寝ぼけているようだ。
 それでも私の手に指を絡めたまま、武はそっと目を閉じる。

「しょうがないなあ……」

 なぜか涙が出た。
 嬉しいようで悲しいような涙。

「武、ごめん……」

 なぜ謝るのかわからなかった。
 誰より愛してると言いたかった。でも言葉にならなかった。

 -*-

 武が起きたのは17時53分だった。

「げ……寝ちまった……」
「おそよう、武!」
「お、おお……おそよう……」

 バツが悪そうに返答しながらも、縁なし眼鏡をかけて、武は部屋を見まわす。

「はいはい、着替えて。ご飯食べに行くよ!」
「うむ……。シャワー行ってくる……」

 トボトボとバスルームに向かう武。
 しばらくしてバスルームから読経のようなブツブツが聞こえてきた。
 水に打たれる修行僧のようだ。

 バスルームの扉が開く音がした。
 私は慌てて武の姿を見ないように顔を手で覆った。

「ごめんな……、今復活したわ」
「うん。風邪ひくから早く服を……」
「由惟、……覗いてもいいぞ?」
「覗きません!」

 武がカラカラと笑う。
 見えていないのに、衣擦れや、服を身につける音が妙に生々しく聞こえる。
 なんてこと。これは余計恥ずかしいヤツ……。

「おまたせ、由惟」

 顔を隠したままの私を後ろから抱き寄せる武。

「さては想像したな?」

 私は何も答えられなかった。
 武が後ろから私の手を少しずつ解いていく。

「ちょっと意地悪が過ぎたな、ごめん。でも、さっき由惟が着替えてるとき、俺も同じだった」
「うん……」

 武の目が見られない。

「俺が来るのは由惟との距離を確かめたいから。由惟が望んでくれるなら俺も遠慮しないけど……でも大事なのはそこじゃない」

 私はこくりと頷く。

「俺のために頑張るのは嬉しいけど、由惟自身も大切にして欲しい」
「それは武にもいえることだよ?」
「わかってる」
「うん」

 想いを確かめるように、軽く唇を重ねる。

「よし……では由惟さんの奢りで今夜は寿司だな!」
「望むところよ!」

 18時40分。
 遅咲きの八重桜の花弁が舞う夕暮れの道を、武と一緒に歩く。
 2人のお腹が同時に鳴ったのがおかしくて、顔を見合わせて笑った。
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