True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP34

 2026年5月19日、21時30分。
 その日は細い月が浮かぶ夜だった。
 琴音があの続きを聞きたいと告げてきたのだ。

「答えは出ましたし、その答えに納得もしています。でも……」

 琴音は迷っていた。
 そこには私への遠慮もあるのだろう。
 ――そんなことを気にしなくてもいいのに。
 私は静かに彼女を導くための言葉をかけた。

「また同じことを繰り返しそうで怖い?」
「はい」
「後ろに戻りたいので、背中を押してもらえませんか?」
「わかったわ」

 その言葉と同時に、琴音は自宅に連絡を入れ始めた。
 私は少し距離を取って、その姿を見守る。
 シンデレラを毎回送り届けていた武の気持ちが、何となくわかった気がした。
 私は琴音と一緒に、自分の部屋に帰った。
 築13年の賃貸マンション、8階の823号室だ。

「わぁ……広いですね!」

 鉄筋9階建てのマンション。2LDKの間取り。
 バス・トイレは別。システムキッチン、日当たり良好。
 この部屋を借りるために、今の会社に入ったといってもいいくらいだ。

「ソファーに座って。ルイボスティーでいい? 冷えたのしかないけど……」
「はい! ありがとうございます」

 冷蔵庫から朝作ったルイボスティーの保存ボトルを取り出す。
 氷は敢えて入れず、細長いグラスに注いで紙のストローを挿した。
 それを二つ用意して、琴音がいる居間の、白い革張りのソファーに持っていく。
 ソファーの前にはガラスのスイングテーブル。
 ガラスの天板をさっと引き出し、グラスを二つ置いた。
 私は、テーブルを挟んで毛の長いラグマットの上に足を崩して座る。

「この映画、DVDで持ってるんですね。しかもディレクターズカット版の初回特典セットじゃないですか!」
「それがわかるあなたも凄いわよ?」
「学生の頃、映画館でバイトしてたんで!」
「それは羨ましいわね。映画館の裏側を知れるなんて貴重よ」
「確かに楽しかったです。彼と出会ったのも映画館だったから――って私の話は置いておいて」

 映画のワンシーンの中にもあった、ヒロインの過去の記憶が呼び起こされるあの瞬間。
 それをいま現実の世界で再現していくのだ。

 私の中にある宝箱――それは同時に、二度と開けるつもりのなかったパンドラの箱でもあった。
 閉じ込めていた熱情が、キラキラした思い出が、時の流れに洗われて、再び花開く。
 私の目には、部屋の振り子時計の三本の針が、ゆっくり逆回転していくように見えた。

「私と武はあれからも繋がっていたの。通話ツールで、いろんな話をしたわ」

 そう、それからも武は、年に一度必ず私の街へやって来た。
 時期は毎年少しずつ違った。私の仕事も、武の仕事も、以前のように都合よくはいかなくなっていたからだ。
 それでも、会うようになって三年目も、四年目も、五年目も。
 武は約束を破らなかった。
 毎年飛行機に乗って、私に会いに来てくれた。
 そして帰る日はいつも、搭乗を急かされるぎりぎりまで私のそばにいた。
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