True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP35

 2009年のクリスマスあたりから、私と武は、パソコンでのオンラインゲームを始めた。
 始めたきっかけは単純で、共通の話題を増やすためだ。
 ただそれだけなのに、毎日90分だけのゲーム時間がストレス解消になっていた。

「名前、どうしよう」
「俺はTARにしようと思う。……取れればだけど」
「その名前気に入っているんだね」
「適当にアルファベット並べて作ったものだけど、由惟と出会ってからこれ以上の名前が思いつかなくてさ」

 武の言葉が心に甘く刺さる。
「KIKKO」は、使われていた。仕方ないので「YUKKO」にしてみるも、これも使われていた。名前が決まらず困り果てていると、武がポツリと「サイ……」と呟く。

「サイ?」
「百合の古名だよ。由惟ってなんか白百合のイメージなんだよな」

 そんなイメージを持たれているとは思わなかった。
 少し嬉しくなって「SAI」と入れると、今度は取ることができた。

「とれた!」
「俺のほうもとれた」

 アバターのキャラメイクも職も、ふたりで画面共有して決めた。
 結果、私が「盾役」で、武が「ヒーラー」になった。
 銀色の髪と薄いブルーの目の女性キャラの「SAI」と、黒髪と黒目の男性キャラの「TAR」。二人が同時に、ビギナーの「始まりの森」に降り立った。

「ヒーラーやるのって久しぶりだ」
「私は盾役なんて初めてだから少し緊張してる」
「直ぐに慣れる。……いざとなれば俺が前に出て……ってあれ?」

 武の画面から戦闘不能時の音楽が聞こえる。

「もう倒れたの? ……早くない!?」
「仕方ないな、ホームポイントもどろ」

 武のTARとパーティが組めるようになるまでにはソロ活動が続く。
 私は早くTARを守れるようになりたくて、ゲームの攻略本を購入した。
 武は本当に気ままに冒険していた。
 倒れた人をそのままにしておけず、回復魔法を投げ続けて逆に襲われて倒れたり、道に迷って倒れたりを何度も繰り返した。
 武はゲーム音楽だったり、ゲーム世界のグラフィックだったり、世界を見て楽しんでいた。でも私はそれよりも、ゲーム本来のシステムが気になった。
 戦闘のスキルや戦術、レアモンスター、ドロップアイテム、所持金。
 盾役は所持金が必要だとわかると、お金を稼ぐスキルも磨いた。

「由惟、レベルアップの度に装備一式作らなくてもいいんだよ?」
「ううん。スキルアップさせたいし、TARの武器も装備もSAIの銘を入れたいの」

 そう言うと武はそれ以上何も言わなかった。
 その代わり、そんな私に合わせるように、TARで「薬」や「食事」などを作る。

 二人だけでは立ち行かなくなると、アットホームな「ギルド」にも入って、仲間たちとダンジョンで戦うこともあった。

「由惟、少し左にそれて。次カウンター攻撃が来るから、盾で抑えるの」
「わかった。回復魔法貰ったらすぐにヘイト回収するね」

 そんな会話が続いた。
 ギルドメンバーはそんな裏側を知らない。
 頼りになる盾役とヒーラーの、息の合ったプレイにただ「上級者」のイメージを重ねるだけだった。

 -*-

 そして会うようになって5年目、2011年。
 ゲームがメンテナンスに入ってしまったり、今日は音楽を聞きたいとなった時に、動画のアドレスを送り合い、同じ曲を一緒に聴いた。
 洋楽が好きな私と武。
 お互いの推し曲を聞き合うようになった。
 気分が乗ると一緒にデュエットを歌うこともあった。
 武は洋楽をきれいに歌うのに対し、私は英語の発音が上手くいかない時が多い。
 それでも武とただ歌いたかった。自信をもって堂々と武のように歌いたかった。
 その頃から武に内緒でラジオの英会話を聞き始めた。なかなか上達はしなかったけれど。

 この頃私たちはお揃いの機種のスマホを持つようになった。
 パソコンでもスマホでも、毎日何度もお互いの名前を呼び合った。

「由惟」
「武」

 離れていても、恋人としての親密な時間がなくなることはなかった。
 誕生日プレゼントも、年を追うごとに少しずつ豪華になっていった。

「そんなに気を遣わないで」
「俺が贈りたくて贈っているだけ」

 その言葉に私は感覚が麻痺してしまったかもしれない。
 ただただ、幸せだった。
 けれども武との結婚だけは、現実にならなかった。
 武は相変わらず夢に向かって進んでいたし、私も安定した職が決まらず、自分の地盤を固めるのに必死だったから。
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