True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP36

 2012年1月11日。
 この頃私は短時間の仕事をいくつかやっていた。
 私達が遊んでいるオンラインゲームに「結婚式イベント」があるとわかった私は、何の気なしに武に呟いた。

「レベルが上がったら結婚式とかできるんだって」
「そうなのか」

 素っ気ない返事だった。
 それは有料オプションだった。
 ウェディングドレスやタキシードをアバターに纏わせ、特別な結婚式場で挙式をあげるといったもの。
 挙式のイベントのゲームで高得点を出せば、衣装は戦利品として手元に残る。
 特にウェディングドレスは人気が高かった。

 ゲーム内で仲良くなったフレンドに、私達は何度かこの結婚式に招待された。
 武には言いだせなかったけど、心の底から羨ましかった。
 結婚式を豪華にすればするほど、有料オプションの料金は値上がりした。
 最高ランクの挙式にすれば、簡単に万札が飛んだ。
 ゲームにそこまでのお金をつぎ込めるわけがない。
 ましてフリーター同士の私達には。
 何度目かの結婚式に招待されて行ったとき、武が呟いた。

「結婚式なんて妙なイベントを作ったと思ったけど、意外と悪くないよな……」
「そうかな? ……私は、見てるだけでいいよ」

 そう、見ているだけで良い。
 だってゲームで武のアバターと結婚したら、それが現実になって欲しいと望んでしまうから。
 そしてそれは武から夢を奪ってしまうことに繋がると、この時の私はそう信じていた。

 3か月が経った。
 いつものように武と一緒にログインすると、武のアバターから何か届いていた。
 この間一緒に討伐したモンスターの戦利品が売れた程度にしか思わず、軽い気持ちでそれを開ける。
 一度受け取った有料アイテムは、もう相手に返せない。
 しかし届いていたのは、有料オプションの最高グレードのチケットだった。
 そもそも武がゲームにお金を使うこと自体、ほとんどなかったというのに。

「……武?」
「俺のわがままに付き合ってほしいんだ。ダメ?」
「ばか……なんで……」

 涙が一気に溢れた。ポタン、ポタンとキーボードを濡らしていく。

「そういう時は、ありがとう、でいい」

 武がこの時どんなことを考えて課金したのか、私は確かめなかった。
 自分が武の決断に何を返せるのか、それだけを見ていた。
 すれ違いはもう始まっていた。
 この時の私は、それをすれ違いだとは思わなかった。
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