True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~
EP37
TARとSAIの挙式は、2012年4月15日、夜20時31分に行われた。
2年あまりの間に出会ったお互いのフレンド、ギルドのメンバー。
それだけで挙式会場はほぼ満員になる。
どこで知ったのか、最高グレードの挙式を一目見たいという通りすがりのプレイヤー達もいたほどだ。
それを二人でお断りしてから挙式を始めたから、1分だけ遅れてしまった。
人気の純白のウェディングドレスを着たSAIと、白いタキシードを着たTAR。
沢山の人々が見守るなか、夢のような挙式が進んだ。
挙式のイベントとして、新郎が新婦を守り抜くというイベントがある。
それは制限時間以内に乱入してきたモンスターの撃破数によって評価が決まり、最高評価の場合、ドレスの色も変えられるほか、デザインが異なるオプションのドレスも入手できた。
「ここは俺の腕の見せどころ……がんばるよ」
そう言って武は、挙式を管理するNPCから受け取ったピコピコハンマーを振り回した。スコアがどんどん上がっていく。
観客の中に実況するプレイヤーが出始めた。
『TARさんの愛は届くのか、否か――!?』
その様子を観客も私も固唾をのんで見守った。
撃退数122体。最高評価ギリギリの撃退数だった。
判定が出るまで少しかかると、経験者が教えてくれた。
そうして待つこと数分――、
SAIが装備したドレスに、金色のエフェクトが出る。
「やった!」
「すごい……」
それからは「おめでとう」のラッシュだった。
みんなでフィナーレの花火エフェクトを見た。
-*-
22時。
式を終えると、武と私はすぐにゲームだけを落とした。
画面に残るのは、通話ソフトのカメラだけ。
ゲームの回線速度を優先させるために、カメラはお互い落としていた。
「由惟、顔を見せて」
「すっぴんだから、だめ。今軽く化粧するから待ってて」
「俺も、見せるから。……いますぐダメ?」
パッと武の顔が見えた。
武の顔はいつもより青白かった。38歳の武。
目元にはくまが深く刻まれ、縁なし眼鏡は掛けていなかった。
「酷い有様だろ。こんな姿でごめんな」
私も勇気を出して素顔をさらす。
私は日焼けして少し肌が色黒。
もう私も32歳になっていた。
あの頃より少しだけ、歳月を重ねた顔になっていた。
「……仕事、大変なの?」
「三日前、締め切りだったんだ。なかなか先生にOK貰えなくてさ……」
結果的に、締め切りには間に合ったそうだ。
でも少し無理をしたと、武は初めて愚痴をこぼした。
「今日の結婚式は俺も楽しみにしてたんだ。由惟はどうだった?」
「……楽しかったよ。ありがとう、武」
私は、慎重に言葉を選んだ。
涙が流れないように必死で堪えた。
「うん。よかった……」
ホッとした顔の武。
いつだったかビジネスホテルで寝ぼけたまま、私を探していたことを思い出す。
「明日早いシフトなんだ、ゴメンね、今日はもう寝るね」
「俺も寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
通話ソフトを落とす。
パソコンの電源を落とした後で、カーテンを開いて窓を見つめた。
窓の向こうには、月のない夜空が広がっていた。
「あれが現実だったらいいのに」
――言えなかった。
武のあんな姿を見てしまったら、もう何も。
幼い頃から抱いていた「お嫁さんになる」という夢に、亀裂が入るのがわかった。
私は必死で欠片をかき集めていた。
なんとか元通りにしようと、起きなかったことにしようと。
でも心が言っていた。
『武と結婚は出来ない』と――。
その言葉が私の中を一晩中揺らし続けた。
2年あまりの間に出会ったお互いのフレンド、ギルドのメンバー。
それだけで挙式会場はほぼ満員になる。
どこで知ったのか、最高グレードの挙式を一目見たいという通りすがりのプレイヤー達もいたほどだ。
それを二人でお断りしてから挙式を始めたから、1分だけ遅れてしまった。
人気の純白のウェディングドレスを着たSAIと、白いタキシードを着たTAR。
沢山の人々が見守るなか、夢のような挙式が進んだ。
挙式のイベントとして、新郎が新婦を守り抜くというイベントがある。
それは制限時間以内に乱入してきたモンスターの撃破数によって評価が決まり、最高評価の場合、ドレスの色も変えられるほか、デザインが異なるオプションのドレスも入手できた。
「ここは俺の腕の見せどころ……がんばるよ」
そう言って武は、挙式を管理するNPCから受け取ったピコピコハンマーを振り回した。スコアがどんどん上がっていく。
観客の中に実況するプレイヤーが出始めた。
『TARさんの愛は届くのか、否か――!?』
その様子を観客も私も固唾をのんで見守った。
撃退数122体。最高評価ギリギリの撃退数だった。
判定が出るまで少しかかると、経験者が教えてくれた。
そうして待つこと数分――、
SAIが装備したドレスに、金色のエフェクトが出る。
「やった!」
「すごい……」
それからは「おめでとう」のラッシュだった。
みんなでフィナーレの花火エフェクトを見た。
-*-
22時。
式を終えると、武と私はすぐにゲームだけを落とした。
画面に残るのは、通話ソフトのカメラだけ。
ゲームの回線速度を優先させるために、カメラはお互い落としていた。
「由惟、顔を見せて」
「すっぴんだから、だめ。今軽く化粧するから待ってて」
「俺も、見せるから。……いますぐダメ?」
パッと武の顔が見えた。
武の顔はいつもより青白かった。38歳の武。
目元にはくまが深く刻まれ、縁なし眼鏡は掛けていなかった。
「酷い有様だろ。こんな姿でごめんな」
私も勇気を出して素顔をさらす。
私は日焼けして少し肌が色黒。
もう私も32歳になっていた。
あの頃より少しだけ、歳月を重ねた顔になっていた。
「……仕事、大変なの?」
「三日前、締め切りだったんだ。なかなか先生にOK貰えなくてさ……」
結果的に、締め切りには間に合ったそうだ。
でも少し無理をしたと、武は初めて愚痴をこぼした。
「今日の結婚式は俺も楽しみにしてたんだ。由惟はどうだった?」
「……楽しかったよ。ありがとう、武」
私は、慎重に言葉を選んだ。
涙が流れないように必死で堪えた。
「うん。よかった……」
ホッとした顔の武。
いつだったかビジネスホテルで寝ぼけたまま、私を探していたことを思い出す。
「明日早いシフトなんだ、ゴメンね、今日はもう寝るね」
「俺も寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
通話ソフトを落とす。
パソコンの電源を落とした後で、カーテンを開いて窓を見つめた。
窓の向こうには、月のない夜空が広がっていた。
「あれが現実だったらいいのに」
――言えなかった。
武のあんな姿を見てしまったら、もう何も。
幼い頃から抱いていた「お嫁さんになる」という夢に、亀裂が入るのがわかった。
私は必死で欠片をかき集めていた。
なんとか元通りにしようと、起きなかったことにしようと。
でも心が言っていた。
『武と結婚は出来ない』と――。
その言葉が私の中を一晩中揺らし続けた。