True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP41

 それは2012年の12月のことだった。
 途切れがちなメールで、武は就職が決まったことを短く伝えてきた。
 久しぶりに通話ソフトを使いたくて、私は武に通話ソフトで話さないかと誘った。
 すると武から着信がかかってくる。パソコンではなくスマホに。

 理由を聞けば、パソコンが壊れてしまったそうだ。
 じゃあ修理に出したのかと聞くと、武は沈黙する。

「しばらくは今までみたいに連絡できないと思う。メールもすぐには返せないけど、由惟から来たものはちゃんと確認するから」

「うん……」

 重たい沈黙が続いた。

「……武の会社って都心なの?」
「違う」
「じゃあ都心から通うんだ?」

 武は答えない。

「……武って、今どこに住んでいるの?」

 武は答えない。
 その代わりほしい言葉ではない言葉をくれる。

「会社は関東にある」
「そうなんだ……。前にいつかは私と一緒になりたいって言ってくれたよね?」
「うん、忘れてないよ」
「私が武の会社近くに就職すれば、全部解決だよね? そうしたら籍を入れて――」

 武のスマホから横断歩道の音が流れた。
 呼吸する音が聞こえる。
 大勢の人が歩く音がする

「由惟と結婚は出来ない。今はまだ……」
「なんで? ねえどうして? 武……私はいつまで待てばいいの?」
「由惟ごめん、またあとで――」

 プツッと通話が切れた。
 後に残ったのは、ツーツーツーという音だけ。
 もう一度武に掛け直す勇気は私にはなかった。
 武からもそれきり電話は来なくなった。
 クリスマスまで待とう。
 大晦日まで待とう。
 成人の日まで待とう。

「武のまたあとで」を私はずっと待っていた。

 そのうちに、自分の何かが壊れた。
 自分が自分ではなくなる感覚を、誰かに操られている感覚を、
 その恐怖を何と言ったらいいのかわからなかった。
 武を愛していた記憶さえ、遠く感じるようになった。

 -*-

 そして2013年の2月14日、自宅で倒れた私に正式な病名がついた。
 両親は何も言わなかった。
 ただ、「気付くのが遅くなってごめんね」と言われてしまった。
 それがどれほど私の心を抉ったかわからない。
 この日、病院からの帰り、両親の車の後部座席で、私は武にメールを送った。

「婚活サイトに登録しました。私と、別れてください」

 返信はすぐにきた。

「わかった」

 それ以上の言葉はなかった。
 たった四文字で、私達のラインは薄く、細くなって、ぷつんと切れた。
 それはとても太くて丈夫な、運命の青い糸だったはずなのに。
 カーラジオから流れる、女性ゴスペルシンガーの歌声がやけに心に響いた。
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