True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP45

 たまたま母の部屋に掃除に入った時だった。
 ドレッサーの引き出しが僅かにあいているのが気になった。
 それをただ閉めようとしただけなのに、何かが引っ掛かって動かない。
 私は自分の部屋から定規を取り出し、隙間に引っ掛かっているものを取り出した。

 それは「由惟へ」と書かれた1枚の封筒だった。
 誰の文字かすぐにわかった。裏には栖藤武と書かれている。
 封は開けられていない。
 私は、引き出しを元に戻し、武の手紙も元に戻した。

 武の手紙がどうしてここに?
 切手も消印もない。
 自宅まで届けに来た?
 手紙の内容が気になった。
 病院に出かけた母の帰宅を待つことにした。

 -*-

 母が帰宅したあとも、私はまだ悩んでいた。
 武の手紙のことを、聞こうにもなんと切り出していいかわからなかった。
 言えないまま、夕食の時間になり、夕食が終わってもまだ何も言えなかった。

「……由惟に伝えなければならないことがあるの。後で部屋に行くわね」

 母が引き出しの微妙な変化に気付いたのかもしれない。

「伝えなければならない事?」
「あなた、栖藤さんに年賀状を送ったでしょう? それを頼りに、彼が訪ねてきたの」

 それは父も知らない事だった。
 母の記憶によるとそれは2013年の4月頃だという。
 丁度私が入院して2か月たった頃、武はまたこの町に来ていた。
 家には母だけだった。
 母はインターホンで武とわかったものの、居留守を使って出なかったという。
 その時に郵便受けに入れられていたのがあの手紙だった。

 二日後、武はまた家を訪れたという。
 その時、母は庭で洗濯物を干していた。
 母は警戒しながらも、武の人柄を信じ、自宅に招き入れた。
 そして私に起こったすべてを武に話したそうだ。
 武は私に会うために母に病院を教えて欲しいと頼んだ。

「会ってどうするの? また由惟を傷つけるの?」
「俺はただ由惟さんと話がしたいんです、ちゃんと向き合って……」
「いまのあの子に冷静な判断ができるわけがないでしょう?」
「待ちます。何年でも由惟さんが振り向いてくれるまで」
「由惟が落ち着くまではあなたのことは伏せるわよ? 悪く思わないでね」

 そうして武は帰って行ったという。
 母は先ほどの手紙を私に渡した。
 私は、母の部屋でこの手紙を見つけたことを母に話した。

「こんなところまで似なくても良かったのにね……」

 昔、母も父以外に好きだった人がいたという。
 心から愛していて愛されていたのに、結ばれなかった。
 親に引き離され、泣く泣く諦めた。
 そうして見合いで父と知り合い、私が生まれた。

「父さんのことは愛してるのよ。あなたのことも。でも、彼のことも愛してた……だから由惟の恋を応援したかった。でも年月が経てばわかってしまった。好きだ、愛してるって、それだけじゃ一緒に生きてはいけないのよ」

 それは母が出した答えだ。
 なぜ母が眠れなかったのか分かった気がした。

 -*-

 私は手紙を開いた。
 そこには、武の新しい携帯番号と関東の住所が記されていた。

『由惟へ
 俺に余裕がなかったせいで、由惟の想いに気づかなくてごめん。
 由惟と話したい。手遅れなのはわかってる。
 それでも俺にもう一度チャンスをくれないか?』

 武の携帯番号を入力して、発信する。
 呼び出し音が8回ほど鳴った。
 やっぱりやめようと、私は通話終了のボタンを押した。
 しばらくしてから、私のスマホが鳴った。

「もしもし……」
「出ようとしたら切れた……ごめん。由惟か?」
「うん、私だよ。武……ほんとに武なの?」
「うん。由惟……もう大丈夫なんだな? 元気か? 飯食えてるか?」

 どうして私の心配をしてばかりなんだろう。

「大丈夫。武は? 元気で頑張ってる? 眠れてる?」

 私の質問に答えるまでしばらく間があった。

「……うん、問題ないよ」

 武の声が震えていた。
 まるで自分に言い聞かせてるみたいだ。
 離れている間に武にも何かがあったのかもしれない。

「本当に?」

 確認するかのように、言葉が出てしまった。
 でもそれが却って武を身構えさせてしまったのかもしれない。
 その問いに対する武の「うん」には、「そこからは踏み込むな」と言われているようだった。

「武……ごめんね、私、婚活サイトには登録してない。嘘ついてゴメンね」
「知ってるよ。由惟のお母さんに聞いたから」
「お願いがあるの。もう一度、私と会ってくれる? もう一度ちゃんと話したい」
「わかった。……今月行くよ。日数はとれないけど、それでもいいか?」
「うん」

 武がまた私の街を訪れる。昔はただそれだけで嬉しかった。
 でも今はちがった想いを生んでしまう。この矛盾を私は悲しいと思った。
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