True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP06

 2006年7月7日。
 目が覚めると6時18分にメールが来ていた。

『おはよう。今日も元気にファイ!』

 たったそれだけのキャリアメールなのに、TARさんだと分かると嬉しかった。

『おはよう! 今日は少し肌寒いかも。そっちは暑い?』

 支度をしているとまたメールが入る。

『そうだな、暑いかも……。溶けないように頑張る』

 最初はこんな感じだった。
 なぜか返事がとても早い気がした。
 もしかして待っててくれた? ううんそんなわけない。
 無機質なガラケーが、神ツールに思えた。
 今日も頑張れる。そう思った。

 -*-

 TARさんとメールを始めて1か月が経った。
 2006年8月8日。
 その日は朝からとても暑かった。そのうえ、仕事も忙しかった。
 帰り時間が近くなると、先輩の金森からまた雑務を押し付けられた。
 それくらい自分でやってよ、と思うものの断れず引き受けてしまった。
 おかげで自分の仕事が時間内に終わらなかった。

 17時45分。
 上司に残業を報告する。
 この上司は、官公庁を退職後、いわゆる天下りでこの会社に来た男性だ。
 彼は私が残業をするというと露骨に嫌な顔をした。
 私が残れば、彼は帰れないからだ。

「何時までかかりそうなんだ?」
「1時間半くらいはかかる気がします」
「わざと残業するんだったら、明日に回してほしいんだけどね」
「すみません……出来るだけ早く終わるように頑張ります」

 机に戻ると山積みの仕事。
 今日中にと言われた文書の作成を急ぐ。
 その他に伝票の整理……。
 まばらになったオフィスで、私は1人、時間に追われながら仕事をしていた。
 電話が鳴り響く。
 上司はコーヒーを飲みながらパソコンに向かって何かしていた。
 何とも優雅である。
 私は電話を取りその対応にも追われた。
 結局私が仕事を終えたのは2時間後だった。

 上司の飲んだマグカップを洗い、給湯室の流しを洗う。
 その時、隣の部署の若い男性がカップを洗いに来た。
 江口亮だ。

「今まで頑張ってたの? お疲れ様」

 彼はいろんな女性に気さくに声を掛ける。
 そのせいか女性社員から人気が高かった。
 先輩の金森が彼を気に入っていた。私から見れば厄介ごとの塊だ。

「ありがとうございます」
「僕も今終わるんだ。前から食事に誘いたかったんだよね」
「でも……」
「裏口で待ってるから!」

 強引な誘いだった。
 そしてやっぱり断れない自分が嫌だった。
 憂鬱な気持ちでロッカーに戻る。

『苦手な人に強引に誘われてる……嫌な予感しかない』

 気が付けば私はTARさんにメールしていた。

『何かあったの?』

 TARさんからすぐに返事が来る。私は状況を簡単に説明した。

『何もないといいんだけど』
『もし何かあったら電話して。いま俺の携帯番号送る』

 TARさんから送られた携帯番号。
 ウソでしょ!? このタイミングで?
 信じられないと思いながらも、このまま江口さんを放置するわけにもいかない。
 それでもTARさんがいる。守ろうとしてくれる。
 それが伝わってきて、少し冷静になれた。
 11桁の数字のお守りを携帯に保存して、私は裏口へと向かった。
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