ピカレスクに心酔


その黒い瞳は野良猫のように警戒しながらも酷く怯えていた。硬く結ばれた唇から言葉が発せられることはない。
確かに少女のはずなのに、年相応の可憐さより哀愁漂う麗しさが印象的だ。

どうして急にやって来たのか、どこから来たのか。
母は一切口を割らなかったし、実里本人も全くと言っていいほど無口な子だった。詮索は無意味だと早々に理解し、私は実里に何かと話しかけ続けた。

可哀想だと思ったからかもしれない。常に無表情で、無感動に目の前の景色を眺めている年下の女の子。
優しくしないと、守らないといけない。純粋に心配する気持ちがあったはずだった。

でも私をそうさせたのは、私の中に優しさがあったからでも、実里のために優しくしようと思ったからでもない。
他でもなく、母が、私にそうあることを望んでいる気がしたからだ。

誰かのために。誰にでも。――完全な善人である母から教わったマインドは、しっかりと私の骨身に刻まれ呪いのようにこびりついている。


『お姉ちゃん』


初めて実里にそう呼ばれた時、本当に嬉しかった。
おはようと言ったらおはようと返ってきて、好きなものや嫌いなものを少しずつ知って、一年が経ったところで、疑問が色濃く残った。

しばらくって、いつまでだろう?

< 11 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop