ピカレスクに心酔
再び顔を上げた時には既に坂井は歩き出していて、彼の表情を窺うことは叶わなかった。
慌てて追いかけ、隣に並ぶ。
英語準備室には森先生の言っていた通りプリントの束――いや、プリントの山が鎮座していた。
物を運ぶ類いの雑用を頼まれた場合、いつもだったら坂井は「俺が持つよ」とこんな私にも紳士的な振る舞いをしてくれる。今回に至っては量が多すぎるため、私も半分手伝うことにした。
「はー……疲れた」
「お疲れ。結構重かったね」
教室まで辿り着き、深く息を吐いた私とは対照的に、坂井は涼し気な様子だ。
「嘘つけ~。重そうな顔してないぞ」
「はは。うん、まあ。女子には重いよねっていう話」
いくら男子だとはいえ、帰宅部相手に運動部の自分だけ息が上がっているのは情けない。
坂井は体育の時だって汗一つかいていないし、俊敏に動いているところはあまり想像できなかった。特別背が高いわけでもなく、体つきがしっかりしているわけでもなく、平均的でやや細い。
「何?」
緩やかに笑って首を傾げる坂井に、自分が彼を凝視していたことを悟る。
びっくりするくらい、いつも通りだ。
そのことに安堵すると同時、なぜかガッカリしている。
「……昨日、ごめんね。変なところ見せちゃって」