ピカレスクに心酔
手元にある作業を、なのか、中途半端な自分自身を、なのか。
うん、と坂井が頷く。
そこからはしばらく無言のまま作業に集中していた。
プリントの山を三分の二ほど冊子にし終えたところで、開けっ放しにしていた教室のドアから冷気が流れ込んできて身震いする。
「今日結構寒いよね」
私の様子に目敏く気が付いた坂井は、言いつつ立ち上がって入口に向かって行った。わざわざ閉めに行ってくれるのだろう。
「あ、ありが……」
お礼を伝えようとした刹那、目に痛みが走って瞬きを繰り返す。
右目にごろごろとした違和感があった。睫毛でも入ったのかもしれない。
生理的な涙が滲んで、それを拭おうと腕を上げた時だった。
「――何で泣いてるの?」
低まった声に、強く掴まれた温度に、確かに覚えがある。
心臓が先走って鼓動を速める。反して、得体の知れない存在に畏怖するかのごとく背筋は凍えて伸びた。
ゆっくり顔を上げれば、視線が交わるより先に目元の涙を煩雑に拭われる。
ぼやけていた景色が輪郭を取り戻したと同時、爛々とした暴悪な瞳に捕まった。
「目赤いけど、また『目にゴミ入った』?」